令和2年臨時国会質疑から – 日本教育新聞社

基本問題

 12月5日に閉会した臨時国会では、法案審議以外にも、今後、日本の教育制度をどのように改めようとしているのか議員と政府の考えが数多く示されている。主題ごとにその概要を紹介する。11月17日の参院文教科学委員会では、梅村みずほ議員(日本維新の会)が子どもたちを性暴力、わいせつ行為からどのように守るか、答弁を求めた。「妊娠の経過は扱わない」とする歯止め規定の撤廃を求めた。

「性の安全教育、どう進める」


 梅村みずほ議員(日本維新の会) 初めて「命の安全教育」と聞いたときに、交通安全教室のようなものを思い浮かべたわけなんです。中身が分かりにくいのではないかと思うんですね。そして、性という言葉は卑わいな言葉でもなければ下ネタでもないんですね。けれども、やはりこの教育全体に覆っているのは、性という言葉を何となく使いたくない、そんな雰囲気が流れているのではないかと思うんです。「性の安全教育」でもよかったのではないかと大変肩を落としております。


 私がキャッチしている情報が正しいのであれば、こちらの「命の安全教育」ですが、学校の教員が教えるということなのだと思っております。


 大臣にお伺いしたいのですが、学校の教員が教えるのが適切だと思われますでしょうか。そして、これまで教えていなかったものになると思います。しかも、命に関わることを教えるとなると、現場には結構な負担になると思いますが、いかがお考えでしょうか。

「学校だけに負担がかからぬよう取り組むべき」


 萩生田光一文科相 性暴力や性被害の予防や対処に関する教育については、学校現場だけに過重な負担が掛からないよう、地方公共団体、教育委員会、家庭、地域の専門家など、多様な主体が連携協力して取り組むべき内容だというふうに思っております。


 現在、内閣府と共同で分かりやすい教材や年齢に応じた適切な啓発資料、指導の手引などの作成に向けて調査研究を行っているところであり、今後、地域の実情に応じて段階的に活用を図ってまいりたいと思います。

「『妊娠の経過は取り扱わない』とする規定、なぜ外せぬか」


 梅村議員 地域の実情に応じてということで、既に各自治体では、地域の実情に応じて専門家の手を借りながら子供たちに性教育を施している自治体も数多くございます。


 ところで、配付資料の四枚目を御覧いただきたく思います。こちらは、このコロナ禍で起こった主な虐待死事件です。全てを網羅できていないかもしれないんですけれども、八項目ございます。母親の年齢に注目していただきたく思います。三番目を除きまして、ほかの事件では母親の出産当時の年齢は二十歳前後だということをお分かりいただけると思います。


 資料には掲載しておりませんが、亡くなった子供たちはいずれも想像を絶する亡くなり方をしています。若くして母親になった、父親になった方が立派に子育てをしている家庭もたくさん多くございます。一方で、そうではない家庭、親もいるということもこれまた事実なのではないかと思うんですね。加害者であり被害者となった母親たち、父親たち、あるいは内縁の夫たち、彼らは本当に親になりたくてなったのか、そして亡くなった子供たちは本当に望まれていたのか。せっかく生まれてくれた命なのに、ふびんでふびんで本当にたまらないわけなんですね。


 そして、やはり加害者となった親たちのことを考えても、こんなむごいことを子供にできてしまうというのは、彼らだって育ってきた環境に問題があったのではないかと思わざるを得ないわけなんです。もし、十年前から性教育がしっかりと現場や家庭で、デジタル、リアル問わずに行われていたら、このうちの一人でも救えたんではないかなと考えるわけなんです。


 軽はずみな性行為によって妊娠すれば、人生は思い描いたものと大きく懸け離れていくことがあります。皆さんの御記憶も新しいと思いますが、港区の公園で赤ちゃんを埋めた二十三歳の女性、当時は就活中だったということです。就職活動の足かせになるといいますか、障害になると思って公園に埋めたということなんですね。彼女が性教育をしっかりと受けていたらこういうことになっていなかった、その可能性は否定できないと思っております。


 この国に生まれてくれた子供たちの命が全て望まれたものになるように、大臣が動いていただきたいと思うんですね。学習指導要領の理科と体育にあります妊娠の経過は取り扱わないものとする歯止め規定を外してください。十年後の学習指導要領の改訂は待てません。性交と避妊というものをしっかり教えていただかないと、来年も十代前半の女の子が妊娠して、泣きながら出産をするということがあり得ます。


 なぜ、今すぐ歯止め規制を撤廃できないんでしょうか、大臣にお伺いします。

「集団指導と個別指導を区別すべき」


 スポーツ庁次長 現在、中学一年の保健体育の授業におきましては、性行為については取り扱わないということとされているところでございます。


 かつて性行為をイラストで示したり、あるいは人形や映像を使って性行為を教えたりするなど、行き過ぎた指導が行われたということがございました。また、個々の生徒間での発達段階の差異も大きいということから、集団で一律に指導する内容と個々の生徒の抱えている問題に応じ個別に指導する内容を区別して指導すべきということで、そう考えているところでございます。


 学校に関する性に関する指導につきましては、様々な御意見やあるいは考え方があると承知しておりまして、その在り方については、情報化の進展ですとか、あるいは子供たちを取り巻く社会環境の変化、子供たちの性に関する意識や行動の状況を踏まえる必要があるというふうに考えております。このような考え方の下で、次の学習指導要領における保健体育の指導内容について整理を進めてまいりたいと考えております。

「自治体が性教育で何を警戒しているか」


 梅村議員 休会中に富山や埼玉、三重や大阪生野など、性教育を先進的に行っている地域に実際に出向きまして話を聞いてきました。地域との、そして保護者との合意形成、各地様々な工夫をしておりますので、是非彼らの話を聞いていただきたく思います。


 性交やセックスを教えずして、性暴力、性被害から子供たちを守ることはもはやできません。しかるべき人からしかるべき教育を受けないから、子供たちはアダルトサイトや漫画でそれを学びます。


 この歯止め規定に引っかからないように細心の注意を払いながら各自治体が子供に教えているんですけれども、産婦人科医、助産師さん、保健師、先生、行政が手を携えて人工妊娠中絶の件数を減らし、暴力も減っている自治体もあります。


 しかし、ある自治体の担当者の方はおっしゃったんですね。先生違うよ、女性は嫌だ嫌だと言ってもうれしいんだよと堂々と言ってくる学生がいるんだそうです。


 また、小学校四年生同士が学校のトイレで行為に及びます。入学したばっかりの小学校一年生が自分の性器の写真を撮ってSNSで送っていたりするんです。そういう時代なんです。


 こういうことをする子供たち、自分で考えてやったと思われますか。私は、どこかで見ているからこそそういうことをしているんではないかと思います。


 発達段階に合わせて、あるいは個別指導なんというお言葉もございましたけれども、私が視察した自治体というのは自主的に行っていらっしゃるんですけれども、専門家の出前授業という形を取っているところが大変多うございます。


 必修ではないので、事前に保護者に知らせます。保護者と一緒に参加してもらえるというところも多かったんですけれども、そうすると、うちの子には受けさせたくないと言えば受けなくていい授業なんです。必修ではないからです。


 大臣もこのニュースは耳にされたと思います。今月、当時十九歳だった実の娘に暴行をし続けて裁判になった父親、一審で無罪だったんですが、最高裁で有罪が確定しました。


 この父親、中学生からこの方は、実の娘は被害に遭っていたんですけれども、中学生だったときに親がその通知を受け取って、受けさせてもらえたでしょうか。私は怪しいと思います。父親が娘に暴行を加えているのに、こんなことを学校で教えられたら自分がやっていることがまずいと分かってしまう。そうしたら、ブロックすることができてしまうんですよ。穴ができてしまうんですね。先ほども申し上げましたけれども、世間の批判よりも子供の命と体と人生を守ること、そちらを重要だと思っていただきたいんです。


 ここで大臣にお伺いしたいんですけれども、各自治体が性教育を子供たちに行うに当たって、自治体が一番警戒していることって何だと思われますか。

「必要あれば指導できる」


 文科省初等中等教育局長 子供たちの実態が、それぞれ一人一人成長の段階にあるわけで、同じ学年にいる子であっても相当程度にその生徒間の発達の段階の差異も非常に大きいと。その中で、その発達している状況をしっかりと見極めた上でどう指導していくかと。先ほど委員から歯止め規定のお話ございましたが、歯止め規定そのものは、決して教えてはならないというものではなくて、全ての子供に共通に指導するべき事項ではない、ただし、学校において必要があると判断する場合に指導したり、あるいは個々の生徒に対応して教えるということはできるものでございますので、そうした慎重な見極めないしは判断というところは心を最低配っているところかなと思っております。


 (参院文教科学委員会令和2年11月17日)

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