【特集】新1年生、他者の視点で「問い」立てられるまでに成長…富士見 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 富士見中学校高等学校(東京都練馬区)は、「社会に貢献できる自立した女性の育成」を教育目標に掲げ、「自分と向き合う力」「人と向き合う力」「課題と向き合う力」の三つの力を育む教育を実践している。今年度の新中1生は、コロナ禍に伴う休校中に学校生活をスタートしたが、同校が提唱する「17の力」に着目した探究プログラムなどによって、着実な成長を見せているという。中1生3人と担任の教諭2人にこれまでを振り返ってもらった。

「17の力」を伸ばしながら人間関係づくり

中1を担任する理科の中村教諭(左)と英語科の小山教諭

 多くの学校同様、同校も昨年春のコロナ禍に伴う休校中、学びをとめない工夫としてオンライン授業を実施した。年間スケジュール通り4月13日から開始できたが、授業のすべてを双方向リアルタイムで行うのは困難なため、オンデマンド方式で授業動画を視聴させる授業も多かったという。

 そんな中でも、リアルタイムにこだわったのは、新中1生向けの探究プログラム「対話型鑑賞」だ。一度も実際に顔を会わせる機会のなかった新入生同士が対話してコミュニケーションを深める機会とするためだ。

 対話型鑑賞は、同じ1枚の絵を見て、そこで何が起きているかを想像し、めいめいが説明するという内容だ。「正解がある問いかけの場合、自信がない生徒は発言を控えてしまいますが、このプログラムは正解がありません。発言のハードルを下げ、生徒それぞれの考えを引き出すことが狙いです。Zoomによる授業でも活発な発言が絶えず、アンケートでも、『クラスの仲間の発言が聞けて良かった』と好評でした」。中1の担任を受け持つ理科の中村誠教諭はこう話す。

 同校では「自分と向き合う力」「人と向き合う力」「課題と向き合う力」を身に付けることを目標とし、これらを「自らを振り返る力」「自分の意見を形成する力」「聴く力」「発表する力」「課題を発見する力」「情報を活用する力」など「17の力」に分けて整理している。さらに、「17の力」はルーブリック(評価表)にまとめられていて、探究プログラムや教科の授業では、どの力を伸ばそうとしているかを生徒自身が理解しながら学ぶことができるようになっている。

 「対話型鑑賞」には「発表する力」と「聴く力」を養成する狙いがあるという。新1年生たちは互いのコミュニケーションを深めながら、二つの力を養うことができたようだ。

 入学式は2か月遅れの6月3日に行われ、同月末からようやく本格的な対面授業が始まった。この時期を振り返って中1の得能愛実さんと御内優奈さんは、「クラスのみんなに会えた時はうれしかった」と口をそろえた。

 得能さんは「数学の授業でペアワークをしたとき、相手が私の考えをくみ取って『こういうことなの』と確かめてくれたので、考えが整理でき、理解が進みました」と言う。御内さんも「どの科目でもペアワークやグループワークが多く、最初は自分の意見がうまく伝えられませんでしたが、話していると自然に相手のことが分かってきて、クラスメートと親しくなる機会にもなりました」と話し、ともに対話することの意味を実感していた。

 同じく中1を担任する英語科の小山久里子教諭は「基本的な知識は講義形式で指導しますが、相手に説明したり教えたりすることが一番の学びになるため、授業でも常に伝えることを大事にしています」と説明する。

 7月には、「B4用紙1枚でLearning Hubの利用案内をつくろう」という探究プログラムが行われた。Learning Hub(略称L-Hub)は、同校の図書館であり、さまざまな学びの中心になる場所という意味で、この名が付いている。

 このプログラムでは、まず生徒自身が図書館で本を探す方法を学び、次に、司書教諭に取材するなどして集めた情報を利用案内にまとめる。「利用案内は、ただ詳しく説明するのではなく、読ませたい相手に伝わるような内容を考えることがポイントです」と小山教諭はこの取り組みの狙いを話す。

 このプログラムは「17の力」のうち、「課題を発見する力」「情報を活用する力」「自らを振り返る力」を養うものだ。生徒たちは、一度自分なりに利用案内を完成させた後で、どこを工夫したらより良い利用案内になるかを互いに指摘し合い、そのアドバイスを盛り込んで、めいめいの作品の完成度を高めたという。

 L-Hubをよく利用するという中1の藤田梨彩子さんは、「私は、自分がL-Hubの便利だと感じる点を整理し、図表なども使って利用案内をつくりました。自分ではとてもよくできたと思っていても、クラスメートから指摘された点を改善することで、もっと完成度を高めることができました」と、達成感を話した。

学年ごとのテーマは「問う」「調べる」「伝える」

 同校では「17の力」を養う上で、各学年で重視するテーマを決めている。中1では課題設定を行う「問う」、中2では情報収集する「調べる」、中3では分析力や表現方法を磨く「伝える」が中心テーマとなる。

 中1の授業や探究プログラムでは、「問う」スキルを高めるために、「ハテナソン」という手法が、しばしば使われるという。

 「ハテナソン」では、例えば1枚の写真をもとに、グループで思いつく限りの「なぜ」を挙げていく。その後、YesかNoで答えられる問いを「閉じた問い」、答えが複数あるものを「開いた問い」として、互いに話し合って分類する。さらに「閉じた問い」が「開いた問い」に、またその逆に変わるよう、問いの文章を考えていくという。「これを経験すると、一見疑問がないようなことも問いにできるようになります」と中村教諭は効果を説明する。

「問い」を立てる授業で意見をまとめる生徒たち

 「問い」を立てる取り組みは、さまざまな教科の授業で行われている。中村教諭は生物の授業で、生徒が1人1台所持しているiPadで校内の植物を撮影させ、その中から選んだ植物についてグループで観察し、問いを立て、調べて発表するという取り組みを行った。

 この授業に参加した得能さんは、最初はなかなか問いが浮かばず苦心したが、グループで黄色い花を取り上げて、「なぜ黄色いのか」という問いを立て、調べて話し合った。その結果、「黄色は目立つ色だから、昆虫などが集まりやすく、受粉しやすいのでは」という結論を得たそうだ。

 こうした授業の成果は、iPadの掲示板アプリで共有しており、自分以外のグループがどんなことを考えたかも閲覧でき、視野を広げることに役立つという。

 小山教諭は今後、中1生について、基本的な生活習慣を身に付けることを重視したい考えだ。「中1から中3まで全員が携帯するフォーサイト手帳を活用して、起床と学習、就寝の3点固定を目指しています。中1ではなかなか手帳を使いこなせないものですが、学年を追うごとに上手に活用できるように、丁寧に指導しています」

 中村教諭は、「学校が再開してから、グループワークやフィードバックのあるプログラムなど、他者の視点を意識したワークを重ねることで、自分になかった『問い』を立てられるようになったことに生徒の成長を感じました」と振り返る。「今後は、今年あまり参加できなかった部活動や委員会活動などを通して、いろいろな価値観を取り入れながら、相手にも分かりやすい形で発信していくことができるように指導したいと思っています」

 (文:山口俊成 写真:中学受験サポート 一部写真提供:富士見中学校高等学校)

 富士見中学校高等学校について、さらに詳しく知りたい方はこちら

Powered by the Echo RSS Plugin by CodeRevolution.