日本数学検定協会(東京都台東区)は今春、新型コロナウイルス感染拡大に伴う休校下の中高生の学習を支援するため、オンライン学習プラットフォーム「新型肺炎休校サポート LINEみらい財団」に自宅学習用コンテンツを提供した。学習者は無料通信アプリLINEを通じてこのコンテンツを利用できる。この無料サービスの内容と狙いを、同協会とLINEみらい財団の担当者に聞いた。
休校開始と同時に教育プラットフォームを立ち上げる
日本数学検定協会は、幼児から中高生、大学生、社会人までの算数・数学能力を測る「実用数学技能検定(数学検定・算数検定)」を実施し、国内外で数学への興味喚起と数学力向上に努めている。
デジタル化や外部との連携も推し進めており、2014年から「教育情報サービス」が運営するeラーニングサイト「ユニバーサル数学」に、動画の素材となるコンテンツを提供している。19年12月には、LINEを活用して社会貢献活動を行う「LINEみらい財団」のパートナーとして学習コンテンツを提供することを発表し、20年からの稼働を予定していた。新型コロナウイルス感染が拡大し、安倍前首相から全国の小中高校へ休校要請が出されたのは、その矢先だった。
「2月27日の休校要請発表と同時に、LINEみらい財団から、休校中の中高生を支援するオンライン学習プラットフォーム『新型肺炎休校サポート』を、休校開始の3月2日から始めたいと打診を受けました。我々としても全国の教育活動を止めることがあってはならないと考え、「教育情報サービス」の了承のもと、算数・数学の授業動画600本を無償で提供することを決めたのです」と、日本数学検定協会の高田忍専務理事・事務局長は話す。
「新型肺炎休校サポート」は中高生向けのサービスであり、数学・国語・英語・社会・理科の5教科について授業動画や問題集を無料で利用することができる。無料通信アプリLINEでこのサービスの公式アカウントと「友だち」になると、LINE上で動画を見たり、問題集を解いたりすることができる仕組みだ。
LINEみらい財団の村井宗明理事は、サービス開始までの経緯をこう話す。「総務省の『平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』によると、10代の若者が平日にインターネットのホームページを利用する時間は1日平均約9分ですが、SNSは71分となっています。中高生にとって圧倒的に身近なツールであるSNSを生かした社会貢献活動を行うのが私たちの使命であり、日本数学検定協会や出版社、予備校などの協力を得て、休校開始と同時に『新型肺炎休校サポート』の運営開始を実現させました」
同プラットフォームでは、5教科合わせて約1000本以上の学習動画と約10万題以上の問題をそろえている。さらに動画配信サイトYouTubeなどで人気の数学講師に声をかけ、数学の授業のLIVE配信も実現させた。
文部科学省、経済産業省、全国の教育委員会のウェブサイトなどでサービスについての告知を行い、現在、会員は29万人に達している。会員数の膨らみについて日本数学検定協会でマーケティング活動を担当する経営戦略部の渡辺茜さんは、「口コミの力も大きかったのでは」と分析する。
「当協会では、以前からTwitterやFacebookで情報発信を行い、4月からはLINEの公式アカウントも立ち上げ、ネット上での動きも常にチェックしていました。『新型肺炎休校サポート』の開始時から、『さすがLINE、やることが早い』といった口コミが多数投稿され、一気に拡散したようです。『これは子供のためになる』という保護者の口コミも見かけました」
あらゆる場面に対応可能な学習環境を整える
同協会によると、この「新型肺炎休校サポート」は、休校のため授業を受けられない中高生だけでなく、学校のオンライン授業を利用している生徒たちの自宅学習用にも役立っているという。
「インターネットを通して学ぶための子供たちのスキル向上が、一気に加速しているようです。動画やオンライン問題集で勉強するという環境は、子供たちにとってごく自然なものとなりました。対面式の授業では気後れしてしまう子供でも、Zoomなどオンライン会議システムを通すと自発的に発言することができる例もあります」と、高田理事は話す。
LINEみらい財団の村井理事は、今回5教科の学習コンテンツを配信した結果、「暗記でこなすことができない数学は、実は完全な独習が難しい」ということに気付いたという。「AIとデータで未来を予測できるとされる時代にあって、数学の重要性はさらに増していきます。これから各教科のニーズに合ったコンテンツを提供していくことを課題としたいと思います」
数検1~5級は1次の「計算技能検定」と文章題などを解く2次の「数理技能検定」に分かれており、独習型のオンラインコンテンツにより計算技能は比較的容易に高めていくことができるが、数理技能の向上にはより細かい指導が必要だという。高田理事は今後の課題について、こう語る。「難しい文章題を解くにも、まずは基礎的な計算能力を高めることが大切です。計算能力を充実させたうえで、今後さらに、数理技能に役立つ『考える力』を育てる学習法を構築していきたいと考えています」
同協会では現在、数検にCBT(コンピューター試験)を取り入れることも検討しているそうだ。「感染拡大に限らず、自然災害などによって教育活動に妨げが起こることも想定していかなければならないでしょう。私たちは、あらゆる場面に対応することが可能な学習環境を整えていく必要があるのです」
地域の算数・数学力向上のため、6月1日には北海道釧路市の鳥取小学校と「地域協働学力向上プログラム事業に関する包括連携協定書」を締結した。算数検定を活用し、地域の小中学校に算数・数学の学力向上プログラムを提供できるよう、調査研究・検証を進めていく計画だ。同協会は、今後も数学教育発展のため、さまざまな方面と連携を深めていきたいとしている。
(文:足立恵子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:LINEみらい財団)
日本数学検定協会について、さらに詳しく知りたい方はこちら。
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