阪神大震災(1995年)で子どもの心のケアに取り組んだ兵庫県内のスクールカウンセラーらが教員と一緒に、新型コロナウイルス禍でのストレスを和らげ、差別や偏見を防ぐ児童・生徒向けの教育プログラム作りに乗り出している。県教委も効果的な授業を集め、全県で展開する方針だ。
「Bさんがコロナ陽性になった。言いふらしたC君をどう思う」。9月17日、伊丹市立花里小学校5年2組の保健体育の授業で担任の真嶋俊範教諭(45)は問いかけた。「怒りで、もう遊ばんで、と言う」「悲しくて泣きそうになる」などと発言する児童に、真嶋教諭は「コロナをよく知っていれば、落ち着いて『良くないよ』と伝えられるんじゃないかな」と話しかけた。
危機の時、自分が陥りがちな感情や考え方と行動を知り、違う考え方があると知るのは、認知行動療法とよばれ、うつなどの治療にも使われる。授業に参加した同校のスクールカウンセラー、福島美由紀さん(56)は呼吸法や眠りのためのリラックス法も指導した。
いつもと違う生活がストレスに
授業を提案したのは、県立大大学院の冨永良喜教授(臨床心理学)。阪神大震災から災害時の子どもの心のケアに取り組み、新型コロナでは感染の不安やマスク着用などいつもと違う生活様式が、避難所でのストレスに近く、問題行動や不登校につながると懸念。「身近な教師が子どもの心身反応に的確に対応することが傷ついた心の回復につながる」と強調する。
冨永さんらは、花里小での授業プログラムを県内のスクールカウンセラーに発信。県内の小中学校では教諭たちが保健体育や総合的学習の時間などを使った授業作りを始めている。県教委はこうした授業から効果的なプログラムを集め、県内に周知させる方針だ。
小学校低学年に影響大きく
県教委が7月に小中高校生約4万人に実施した調査では、小学1~3年の1割が「ほぼ毎日怖くて落ち着かない」と回答するなど特に低学年の子どもたちに大きく影響が出ていることが判明した。小1~3年でコロナウイルスを「知らない」「あまり知らない」との回答が計20・7%と他学年より10ポイント以上高いことに着目。防災教育で地震の仕組みと身の守り方を教えるように、コロナの対処法を教えることで子どもたちの心を安定させることに力を入れる。
小学校低学年向けの教材は、阪神大震災で日本臨床心理士会の現地対策本部長を務めたスクールカウンセラーの高橋哲さん(69)が監修。ウイルスの写真を載せ、感染の仕組みと、手洗いやマスク着用の理由を解説した。ウイルスを妖怪に見立てたイラストを使い、「こわいものが見えないとき、わたしたちはなにか見えるものをさがしてかわりにやっつけようとする」とコロナ禍の中で悪口や仲間はずれが起きやすくなる仕組みをやさしく説明している。
高橋さんは「学校現場は感染防止対策で緊張状態が続いている。ひとたび感染が判明すると保護者も含めて緊張が大きく高まる。継続的に子どもの心をサポートすることが大切だ」と訴えていた。【井上元宏】
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