高校生が「制服を着崩さなくなった」本当の理由 – 東洋経済オンライン

高校生が「制服を着崩さなくなった」本当の理由-–-東洋経済オンライン 教育関連ニュース

学校や親に反抗する生徒が少なくなっている背景にあるのは?(イラスト:shrimpgraphic/PIXTA)

学校制服の役割に変化が見える。個性と管理で揺れ動く学校教育の進化や多様化とも言える。社会が大きく変わろうとする今、制服はどうあるべきか。「今時の高校生が『制服での管理』に抵抗が薄い訳」(2020年10月20日配信)、「女子高生の「かわいい制服」が管理を駆逐した訳」(同10月27日配信)に続いて、教育ジャーナリストの小林哲夫氏の新刊『学校制服とは何か その歴史と思想』より一部を抜粋し、お届けする。

■2010年代から着こなしに変化が

制服はかわいく、かっこよくなったことで、学校で管理教育は見られなくなったかといえばそんなことはない。制服モデルチェンジしてからは、それを厳しく守らせるようにする。

「うちの生徒は制服が好きでこの学校を選んだ」と受け止める学校のなかには、かわいい制服なのだからそれに従いなさいと言わんとばかりに、変形させたら口うるさく指導する、スカート丈は毎日しっかり点検する、少し前ならば腰パンに近いかっこうをすれば着替えさせる、など厳しく管理するところは少なくなかった。学校から腰パン、ミニスカートを追放するためである。

「服装の乱れは心の乱れ」神話は、学校にとってはまだまだ有効に作用した。制服メーカーには変形できない、スカートを短くできない素材、デザインを求める声はずいぶん届いている。だいたい1990年代から2000年代のことである。



ところが、2010年代に入ってから、制服の着こなしに少しずつ変化が見えてきた。

街で腰パンや極端なミニスカートなど、制服を着崩している不良、非行少年少女の姿がめっきり減ったのである。新宿、渋谷、池袋を闊歩するタータンチェックのミニスカート姿に遭遇することが珍しくなった。

たしかに街で着崩しを見なくなった。みんな制服をまじめに着ている。

このことから不良、非行少年少女が少なくなったとは決めつけられないが、多くの高校生に話を聞いてみると、制服変形が減少した理由を次のように整理することができる。

1. 学校や親に反抗する生徒が少なくなった。素直で良い子が増えた。校則は守らなければならないという遵法意識が高い。保護者の子育てが行きとどくようになった。

2. 着崩しすることが流行の最先端とは思わなくなった。制服はこのままでも十分にかわいい、とみる。

3. 経済的に余裕がなくなった。着崩しのための制服変形にかける金がない。勉強、部活動、アルバイトに忙しく、繁華街を着崩した制服姿でうろうろすることはなくなった。

4. 学校推薦型選抜入試(推薦入試)、総合型選抜(AO入試)対策として着崩しはせず、まじめなかっこうで学校に通う。

→■AO、推薦入試の増加で制服を着崩さなくなった

管理されることに抵抗がなく、学校の指示には従う、かわいい制服が大好きで、着崩しは「ださい」という見方はそれなりに合理性がある。

ここで注目したいのは、4の学校推薦型選抜入試(推薦入試)、総合型選抜(AO入試)対策との因果関係である(以下、「学校推薦型+総合型」)。

■年々減る大学の一般試験入学者

最近、学校推薦型+総合型の入試入学者の比率が高まっている。2000年、33.1%、08年、43.4%、17年、44.3%だ。大学別で2007年と2017年を比べると、早稲田大は33.9%から、39.5%、慶應義塾大は14.9%から18.7%に増えている。青山学院大、学習院大、上智大、立教大は4割を超えている。

これは国の政策が反映されている。文科省のことばを借りるならば、「入学者選抜において受験生の資質や能力などを多面的、総合的に評価する」ことが推し進められた。そのために、主に学力試験などによる一般入試主体から、「調査書や多様な能力、適性、意欲など」をていねいに評価するという「学校推薦型+総合型」に舵を切りつつあった。

これが制服の着こなし方に影響を与えている。

「学校推薦型+総合型」による入試に受かるためには、「多面的、総合的な評価」に耐えうるため、高校生活をまじめに送らなければならない。学校から推薦してもらえるようにいつも校則をちゃんと守る、もちろん、制服はきちんと着こなしミニスカートなど変形はもってのほかだと、生徒は考えるようになった。

教師からそう指導されたわけではない。大学に入る近道は優等生になること。そのために生徒が積極的に管理されるようになった、と言える。大学進学率(4年制)が高まり、これまでに大学に進まなかった層が大学で学ぶという背景もあった。大学進学率の推移は、1990年、24.5%、2000年、39.7%、2010年、50.9%、2019年、54.6%となっている。

これらをすこし整理してみよう。

『学校制服とは何か その歴史と思想 』(朝日新聞出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

社会構造が変化するなか、大学進学率が高まった。一方で少子化が進み、大学は優秀な生徒を確実に受け入れたい。そのためには一般入試ではなく「学校推薦型+総合型」が効果的であり、実際のこの入試方式が早慶MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)、関関同立など大規模大学で増えた。

「学校推薦型+総合型」に受かるためには校則を守らなければならず、制服はきちんと着こなし変形させてはいけない│これが入試制度の変化が制服の着こなし方に与えた影響である。街にヴィジュアル的な不良、非行少年少女を見かけなくなった1つの要因でもあろう。

制服の思想に大学入試が入りこんでしまったわけだ。

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