普段は口に出せない両親への感謝や、忘れられない家族の思い出をつづった「家族の作文コンクール」(産経新聞社主催、学校法人雲雀丘学園共催)の選考会が行われ、大賞には、新型コロナウイルスが流行する中、看護師の仕事に立ち向かう姉の姿を書いた小林聖心女子学院高等学校(兵庫)の杉村陽香さん(17)の「大人になるということ」が選ばれた。同コンクールは、親孝行を創設の理念とする雲雀丘学園の創立70周年記念事業。全国や一部海外から一般の部、小中高生の部に計2533点の応募があり、作家の玉岡かおるさん、門井慶喜さん、宗教学者の釈徹宗さん、産経新聞大阪本社の山田智章文化部長が審査した。また、産経新聞社賞には、岐阜市の田中一慶さん(34)の「四世代八人家族」、雲雀丘学園賞には、雲雀丘学園高等学校(兵庫)の宮路尊羽(たかは)さん(16)の「ある夏の日の挑戦」が決まった。表彰式は11月8日、兵庫県宝塚市の雲雀丘学園講堂で行われ、優秀作品を学園OGで元タカラジェンヌの万理沙ひとみさんが朗読する。
【大賞】大人になるということ 小林聖心女子学院高等学校2年生 杉村陽香
私の姉は6年目の看護師だ。神戸の医療センターで循環器の病棟看護師として働いている。朝から仕事に行くときもあれば、昼から次の昼まで働いて帰ってくることもある。具体的にどんな仕事をしていて、どんな苦労があるのか、また楽しいのか大変なのか興味を持ったことがなかった。ただ一足先に働いているという程度の認識だ。
そんな時、新型コロナウイルスがやってきた。まだ身近に感じることもないニュースの話だったその疫病は、少しずつ身近なものになっていった。そしてとうとう姉の勤務する病院に新型コロナウイルスの患者が出たと姉から聞いた。どうやら本当の話のようで、テレビに姉の勤務する病院が確かに映っていた。
「お姉ちゃん、仕事休めば?」
すると姉は私の予想外の言葉を発した。
「こんな時に行かなきゃ看護師になった意味がないじゃない」
そう言い放った姉は何故か気合が入っていた。責任感でもなさそうだし使命感でもなさそう。何が姉をああいう表情にさせるのか私にはわからなかった。
数週間後、姉は家を出て病院の近くにあるホテルで暮らすことになった。家族にうつしてしまわないための病院の措置らしい。大きなスーツケースを持って「行ってきます」と言う姉の姿は私の知っている「お姉ちゃん」ではなく、この国難に立ち向かうその一人として少し遠くに見えた。
大人になるってそういうことなんだと少しわかったような気がする。それは私が気づいたからではなく、姉に教わったわけでもなく、家族の中で私が成長しているからだと思う。
【講評】「感じ方が素直でうまい」
玉岡 感受性が柔らかい高校2年の妹が、がんばる姉の姿に励まされる、前向きないい作品だと思いました。感じ方が素直で、うまいですね。新型コロナウイルス流行の中、最前線でがんばっているお姉さんの姿をここまで書けたという点を評価しました。
門井 姉のことを、変に理想化していないところがいいですね。だから、余計にこちらに迫ってくるところがあります。「少し遠くに見えた」の「少し」がすごく効いています。文章力があるので、本をたくさん読んでいるのでしょう。
山田 姉がすごくかっこよく見えますよね。
玉岡 普段は、だらっとしているお姉ちゃんも見ているのでしょう、それが予想外の返事をして、きりりと戦士のように出ていく。そこに驚いたことでこの作品ができたのだと思います。
門井 テレビの向こうのものだった新型コロナウイルスが、だんだん身近に感じてきて、あっ、お姉ちゃん-と迫る感じがすごくよく出ている。
山田 新型コロナウイルスは、今年のテーマでもあります。時事性も含めて大賞にふさわしい作品ではないでしょうか。
【受賞のことば】「みんな成長している」
わが家は4人姉妹で、学校や仕事のあと、両親も一緒にリビングに集まってみんなでしゃべっているような、にぎやかな家庭です。私は3女で、作文に登場する医療関係者の姉は長女。10歳離れていて、幼いころから母親代わりのような存在でした。
悩みごとを相談しても「こうすれば」とズバッとこたえてくれるような、しっかりして頼れる姉です。受賞を知らせると、おめでとうと言いつつも「著作権料をもらわなくちゃね」と笑っていました。あまり文章とかは書かないので、まさか大賞をいただけるとは思いもしませんでした。とてもうれしいです。
作文を書くことを通して、姉も自分も、みんな成長しているんだな、ということを、改めて実感できたことがよかったです。
Powered by the Echo RSS Plugin by CodeRevolution.