芝中学校芝高等学校(東京都港区)は昨年から、生徒に新しい発見の場を提供する課外講座「芝漬ゼミ」を実施している。長期休暇中に有志の教師たちが教科外の得意分野を生かして開講しており、生徒は中学・高校の別なく、どの学年でも参加できる。「和算」「オリエンタルランドの会計報告書」などユニークなテーマが並ぶ、この講座の狙いと成果を、担当教師らに聞いた。
「手塩にかけて、じっくりと漬け込む」講座
同校は2019年から、夏休みや冬休みなどを利用して開催する課外講座「芝漬ゼミ」を開いている。「通常の授業ではどうしても、『間違えてはいけない、速くやらなければ』と、生徒は
「芝漬」とは、「中高6年間、手塩にかけてじっくり漬け込み、おいしく育てる」という同校の教育への思いが込められた言葉だ。有志の教師が講座の企画を考え、中学・高校の別、学年を問わずに生徒を募集する。昨年春に「プレ芝漬ゼミ」を開講したところ手応えがあったことから、同年の夏休みに本格的に13講座、冬休みには5講座を開講した。休み期間中で任意参加にもかかわらず、20~30人の参加者を集める講座が多く、なかには100人を超える講座もあったという。
同じく学習進学部学習係の加藤博之先生は、教師、生徒ともにモチベーションが高い理由について、こう説明する。「教師にとっては、教育課程にはないけれども自分が得意なテーマについて指導するよい機会となります。生徒はその教師の熱意に動かされて知的好奇心を刺激され、新しいことに意欲を持って取り組むようです」
「芝漬ゼミ」の発足前から、同校では卒業生の紹介を受けて企業を訪問したり、放課後に希望の生徒が集まって自主的に理科の実験を行ったりする課外活動が盛んに行われていたという。そういった積極的な姿勢が、「芝漬ゼミ」を実現させ、成功にもつながったようだ。
大学や卒業生の協力で多彩な講座を実現
数学担当の岡田先生は昨年、江戸時代に盛んだった「和算」の講座を開いた。「和算」は生活に密着した算数で、江戸庶民の間ではクイズのように楽しむ習慣があったそうだ。1回だけハサミを使って多角形を切り出す「一刀切り」を講座でやって見せたところ、星形5角形、星形10角形など、多彩な形にチャレンジする生徒もいたという。
また、岡田先生の出身校である東京理科大学の協力を得て、同大の「数学体験館」を訪ねる「
芝中高では、教師が自身の教科について外部の研究会に参加していることが多いという。そういう縁で東京大学先端科学技術研究センターの協力を得て、太陽電池の製作講座を行った例もあるそうだ。
国語担当の加藤先生は、公認会計士となった卒業生を集め、「会計知識を使ってオリエンタルランドの裏側を
異なる教科の教師たちが協力し合って実現した講座もある。「光の科学」では、物理の教師が「光は電磁波の仲間である」という話から放射線、レントゲン、Wi-Fiなどの仕組みを教え、地学の教師は「星の光」をテーマに太陽光の観察や実験を行った。さらに生物の教師が「ウミホタルの発光」を解説し、化学の教師は「紫外線」に関する実験を行ったという。参加したのは中2、中3の生徒で、高校生向けの内容も含まれていたが、普段の授業では扱うことがないテーマだけに、皆、喜んで取り組んでいたそうだ。
「教師が一方的に指導するのではなく、生徒と目線を合わせて一緒に活動することで、純粋に『学問って楽しいものなんだ』ということに気付いてもらえればと思います。その上で、いずれ将来の進路選択に役立ててほしいと考えています」と、岡田先生は話す。
「自分から新しいものを発見することができなくても、私たちが機会を提供すれば、生徒たちのエンジンは一気に回転し始めます。それが、今後主体的な学びにつながってくれればと思います。同じことをしていても人によって見方が異なり、新しい価値観が生まれることに気付いてほしいですね」と、加藤先生は期待をかける。
今後はさらに講座数を増やす予定で、他者との理解を深め合う「対話力」の講座などを、企業と協力して検討している。これも、岡田先生が個人的に企業セミナーに参加して得られた構想だという。一つのテーマについて理解を深めていくような講座を続けることで、これから学校教育の中で求められる「探究」教育の実践にもつなげたい考えだ。
(文:足立恵子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:芝中学校 芝高等学校)
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