わが子の学力をあげるには、自発的に学んでもらうことが重要です。わが子の学習意欲を引き出すにはどうすればよいのでしょうか? 親だからこそ実践でき、意外かつローコストな方法を解説。※本連載は、中学受験専門塾「伸学会」の代表・菊池洋匡氏、「伸学会」開発部主任・秦一生氏の共著『「やる気」を科学的に分析してわかった 小学生の子が勉強にハマる方法』(実務教育出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
目標は「与えるもの」ではなく「持たせるもの」
「次の模試では偏差値62を目指そうね!」
お子さんに、そんな声かけをしてしまったことはないでしょうか? 多くの親がやりがちな失敗として、「目標を与えること」があります。子どもは親に比べて圧倒的に経験不足です。
●将来どうなったらいいか
●そのために数年後にどうなっていたらいいか
●そのために来月どうなっていたらいいか
このようにゴールから逆算して、途中経過となる目標を設定することは苦手です。
そうなると多くの親がやるのは、「代わりに目標を設定してあげること」です。
将来この子が安泰になるように、受験であの学校に行かせなきゃ。そのためにはあの塾に早い時期に入会して、上位のクラスを維持させなきゃ…。
そうやって、お子さんのためにレールを敷き、レールから外れそうになると一所懸命に軌道修正しようとします。ところが…。
以前の記事『「勉強しなさい!」と言われた子の成績が伸びなくなる根本理由』(関連記事参照)でも書きましたが、人には「自分のことは自分で決めたい」という根源的な欲求があります。この「自律性」の欲求はとても強力です。
「自律性」を奪われて誰かが立てた計画通りに行動するのは、勉強だろうと仕事だろうと面白く感じない、ということはすでに書きました。同じように、誰かが決めた目標を目指すのは面白く感じないのです。
だから、よかれと思って親が目標を決めて、そこを目指して行動させようとしても、お子さんはその目標に対して当事者意識を持てません。情熱を感じないのです。つまり、“冷めた子”のできあがりです。
そういった子は、目の前にテレビやゲームといった誘惑があるとガマンできません。「誘惑」と「目標」を天秤にかけたら、「目標」が軽いのですから当然です。それでは困りますよね。そこで重要になるのが、お子さんが目標を自分で決められるように育てることです。
他人が決めた目標を目指すのは面白くない イラスト:吉村堂
職業体験や学校見学…「情報」を与えて勉強意欲を刺激
子どもが目標を立てられないのは「経験不足」と、それによる「知識不足」によるものです。知らない目標は目指せません。小さな子がよく知りもしないのに、「将来はシステムエンジニアになりたい」なんて言いません。小さな子の将来の夢は「お花屋さん」「パン屋さん」「電車の運転手」「アイドル」「Youtuber」など、目にして知っているものです。ですから、お子さんが自分で目標を立てられるようになるためには、まず知識不足を補うことが重要なのです。
話は少し横道にそれますが、個人レベルではなく国家レベルでの教育政策の話をしてみたいと思います。情報を子どもに提供することで、子どもの学力が大幅に伸びたとするマダガスカルで行われた実験結果があります。
小学生をランダムに分けて、あるグループの親子には、教育に学費や時間をかけることで将来どれだけの収入につながるかを教えました。そして5ヵ月後、その教育の収益率情報を知らされなかった子どもたちと比較したところ、知らされた子どもたちの学力は大きく上がっていたことが示されています。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の貧困アクションラボは、様々な研究の蓄積と比較を行っています。それによると、たった5ヵ月の情報を提供するだけというコストのほとんどかからない方法で、テネシー州で2年間にわたって実施された多大なコストがかかる少人数学級よりも高い効果が得られたそうです。この結果は、情報提供を通じて子どもたちに、学習意欲を引き出すARCSモデルのR、「勉強するべき理由(R)」を与えることの重要性を私たちに教えてくれます(マダガスカルの実験では親も含めてですが)。
学歴と年収の関係を子どもに教えることには、抵抗を感じる方が多くいらっしゃいます。ですが、あなたのお子さんがこの情報を知らないまま大人になり、後から知ることになったときを想像してみてください。もし、知らないまま努力する機会を逃すのは損失だと考えるなら、メディアの学歴・年収ランキングなどをご活用ください。
情報を与えた子どもは行動が変わる イラスト:吉村堂
キッザニアのような場所で、職業体験をしてみるのもいいでしょう。やってみて好きな仕事を見つけたら、その仕事に就くためにはどういったルートをたどればいいのかを考えさせましょう。
歯医者さんになるには大学は歯学部? 裁判官になるにはロースクール? 試験に合格するにはどれくらい勉強しなければいけないの? そういったことを考えると、「勉強するべき理由(R)」が見えてくるでしょう。
勉強すべき理由が見えてくる職業体験 イラスト:吉村堂
また、伸学会でもオススメしているのが、早い段階での中学校見学です。私立中学校は公立中学校とは設備が段違いです。「トイレが圧倒的にキレイ」というだけで、私立に行きたいという子もいるほどです。グラウンドや体育館の設備、理科室の設備、授業で使う顕微鏡やパソコンの台数などなど、挙げればきりがありません。
ラグビー部などのように、近所の中学校にはなかなかない部活があると、それが目当てで入学を目指す子もいます。これらはわかりやすく、子どもにとっての「勉強するべき理由(R)」になります。
ただし、現在の自分の力とかけ離れた目標は、かえって子どものやる気をそぐことになります。そのため、連れていくのはある程度目指せる目途がある学校から選びましょう。
親の役割は「情報提供」と「目標の発芽を待つこと」
親としては、情報を与え続けて、お子さんの中から目標が芽生えるのをじっと待ちましょう。慌てなくても、そのうち自然と出てくるものです。
ただ、人は忘れる生き物です。こうなりたいという目標を持っても、その気持ちは放っておけば薄れます。だから、お子さんにはその目標を忘れないように、何度も思い出すきっかけを与えてあげてください。お子さんにどうなりたいのかを聞いて、その目標に対しての想いを受け取りましょう。
お子さんがある程度の年齢であれば、「こうなりたいから〇〇する」という「行動目標」まで考えられるようにしてあげたらいいですね。自分の中から出てきた「勉強するべき理由(R)」ですから、お子さんはやる気に燃えることでしょう。
【まとめ】
まだ目標を決めるだけの経験・知識がない子には、親は情報を提供する。そして、子どもから目標が出てくるのを待つ。
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