「新聞報道から」その54―性教育 コロナ休校で後回し?― – BLOGOS

基本問題

性教育 コロナ休校で後回し? 

動画模索も見極め課題

妊娠相談が増加 危機感

普段から重視されない風潮。

教員に苦手意識 膨大なネット情報、うのみ心配

 学校の先生も遠ざけがちな性の話題。新型コロナウイルスの感染拡大による休校の影響で、中学や高校で性を扱う授業が削られたり、後回しにされたりすることを懸念する声もある。分からないことはインターネットで検索できる今の時代。膨大な情報から必要な知識をどう見極めるかが課題となっている。(大沢悠)

 「大切なパートナーとセックスするには準備が必要。準備とは避妊。コンドームやピルなしに性行為をすると、相手を傷つけてしまいます」

 愛知県幸田町の助産師岩本知帆さん(37)が5月下旬、小中学生の親子向けに開いた有料のオンラインセミナー。性交から受精を経て命が生まれる仕組みやコンドームの使い方などをイラストや模型を使って説明した。一時間弱のこの動画は有料で配信し、七月までに32人が視聴した。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の性教育指針で五歳以上が対象である点を踏まえ、対象を小学生からにした。セミナーを始めたきっかけは、全国一斉休校となった3〜5月に中高生の妊娠相談が増えたというニュース。「学校の授業では足りない」と危機感を抱いた。

 日本の中学校の学習指導要領では「妊娠の経過は取り扱わないものとする」と明記され、「性交」は教えないこととされている。

 南山高等・中学校男子部(名古屋市)の保健体育教諭で、私学性教育研究会主任の中谷豊実さん(59)は「熱心な先生もいるが、性教育は普段から重視されていない風潮がある。苦手意識を持つ教員は多い」とした上で、「コロナ禍による学習の遅れを取り戻すことが優先される状況では後回しになるのでは」と懸念する。

 授業時間が限られる中、中谷さんが頼りにするのはインターネット上で公開されている性教育の動画だ。「端的にまとまっていて役に立つものも多い。工夫を凝らしたユニークな海外の動画を使うこともある」という。

 一方で、「ものすごい量のネット情報から、中高生が正しい性の知識を見極めるのは難しい。アダルト動画が教科書になってしまっている子もいる」と指摘。スマートフォンに親しむ世代が、怪しげな情報をうのみにしてしまう心配もある。

 日本財団が2018年に800人の17〜19歳を対象に行った調査では、23.3%がセックスの経験があると回答。「学校での性教育」は約六割が「役に立った」と答えたが、「教師は腫れ物を触るような感じで、教えてはいるが生徒には何も伝わっていない」などの不満も。「性に関する情報源」では、「ウェブサイト」が55.8%で最多となり、「友人」(50.2%)「会員制交流サイト(SNS)」(31.4%)と続いた。

    ◇

 必要なサイト「仲介」

 「性教育ちゃんねるりの」の番組名でネット発信する慶応大2年の中島梨乃さん(19)=写真=は、高校時代、自身の性体験についてネットで調べたことがある。「書いてあることがばらばらで、どのサイトを調べていいか分からなかった」と振り返る。

 複数の友人からは「性行為の後に生理が来ない」と相談を受け、高校三年のときに性教育の情報発信を始めた。婦人科での体験や大学の図書館にある書籍などが情報源だ。

 ネット上には、産婦人科医や助産師のほか、性教育の支援団体からアダルトビデオ俳優まで、性教育に関するさまざまなサイトがある。中島さんは「学校の性教育をすぐに変えるのは難しい。手が回らないなら、必要な情報が載っているサイトを選別し、紹介する『仲介者』になればいい。先生たちに負担もかからないし、生徒は正しい情報にアクセスできる」と提案する。

※2020年8月26日付「中日新聞」です。

Powered by the Echo RSS Plugin by CodeRevolution.