仙台育英が中学・高校で初導入 自由視点映像が変えるICT教育の現場とは? – 日経テクノロジーオンライン

仙台育英が中学・高校で初導入-自由視点映像が変えるict教育の現場とは?-–-日経テクノロジーオンライン 基本問題

教育のICT化が進む昨今、仙台育英学園とNTTドコモ東北支社が「新たな時代の教育現場の実現へ向けた中期的取り組み」を発表した。取り組みの第一弾として自由視点映像の「SwipeVideo」が選ばれ、体育授業や部活動で活用していく。その先には5Gネットワークとの連携も含まれている。NTTドコモ・ベンチャーズ(NDV)がブリッジとなった今回のプロジェクトは、次世代教育に何をもたらすのか。関係者が未来への期待を語った。

仙台を代表する名門校が挑むICT教育

 宮城県仙台市を代表する学校法人の1つである仙台育英学園(以下、仙台育英)は、秀光中等教育学校(2021年4月から秀光中学校として設置認可申請中)、仙台育英学園高等学校(以下、仙台育英高校)を有する。仙台育英高校は東北屈指のスポーツ強豪校として知られ、硬式野球、サッカー、ラグビー、駅伝、卓球などで数々の優秀な成績を収めている。

 1905年(明治38年)に加藤利吉氏が仙台市に創立した私塾「育英塾」が原点。建学の精神を「至誠」「質実剛健」「自治進取」と定め、以降115年の長きにわたり仙台の地で学校教育に邁進してきた。現在は仙台市宮城野区の他、隣接する多賀城市にも広大な校舎を構え、中学・高校あわせて3400名を超える生徒が学ぶ。

 創立125周年を迎える2030年に向け、仙台育英では新たな学校づくりを推進している。2020年7月、その一環としてNTTドコモ東北支社(以下ドコモ)と協力し「新たな時代の教育現場の実現へ向けた中期的取り組み」がスタートした。本取り組みでは各種のICTツールやサービス、本格化する5Gを活用しながら“次世代教育のあり方”を確立していく。

 具体的には仙台育英における「教育」「スポーツ」「文化活動」にドコモの豊富なアセットを組み合わせ、3つのステップで効果的な教育現場の実現をめざす。そのステップは第一段階が「多種多様な映像の活用」、第二段階が「IoT、AI、センシング技術の活用」、第三段階が「5GやXR、3Dホログラムなど距離、時間、空間を超えた技術の活用」となる。

 今回、第一段階の取り組みを支援するICTツールとして、AMATELUS(以下、アマテラス)が提供する「SwipeVideo」(以下、スワイプビデオ)が選ばれた。複数台のiPhoneで撮影した多視点映像をクラウドにアップし、独自システムですぐに360度動画を生成。スマートデバイスでスワイプすることで自由に視点を切り替えられる特徴がある。仙台育英ではスワイプビデオを中学・高校の体育授業と部活動に導入し、より緻密な映像による指導や分析に役立てる予定だ。なお、中学・高校でのスワイプビデオ導入は全国初の事例である。

スポーツ分析への興味のきっかけにも

 仙台育英高校 情報科学コースで教頭を務める阿部文男氏は、「今回の取り組みは建学の精神の1つである自治進取に深く関わるもの。地域の期待に応えられるような先進的な教育に挑んでいきたいとの思いから始まった」と経緯を振り返る。

仙台育英高校 情報科学コース 教頭 阿部文男氏

 また、新型コロナウイルスの影響によって休校を余儀なくされるなど、かつてなくオンラインやICTの重要性が高まってきた背景もある。「通常の授業のみならず、部活動が制限される中、どのようなアプリケーションで生徒に対する効果的な教育活動をしていくべきか。その1つの答がスワイプビデオのようなツールだ。ドコモと連携して、いろんな提案をいただけるのは非常に有意義だと感じている」(阿部氏)。

 既に現場では活用が始まっており、生徒たちの評判も上々だ。例えば空手の技を多視点から確認したり、踊りの振り付けをさまざまな角度からみんなでチェックしたりと、これまでにない客観的な批評やアドバイスが可能になった。特別進学コース 保健体育科主任の菅原新氏は、実際の効果を次のように語る。

仙台育英高校 特別進学コース 保健体育科主任 菅原新氏

 「これまでの体育の授業や部活動の指導では、『右に寄っているからもっと左に』というように、先生が指摘した言葉を生徒が頭の中で映像化して修正していた。だがスワイプビデオなら実技動画をすぐに共有し、一緒に課題を見つけられる。どうすればいいのかの答を一緒に確かめることができる。

 もう1つ、生徒の質問の質が変わってきた。生徒自身も考えを持って『こんなふうになっていますが、先生どう思いますか?』と聞くようになる。1歩先、2歩先の質の高い質問を投げかけてくるのは新発見だった。これにより、教え方も教わり方も変わる。単に動画を見て改善するだけが学びではない。そこまでの思考のプロセスを学んでほしいとの思いもある。感覚だけではなく、“なぜそうしなければいけないのか”の根拠が見えてくるからだ」(菅原氏)

スワイプビデオを活用した部活動の様子。生徒がすぐに動作を確認できる

 その先には、スポーツの分析能力が開花する可能性があると菅原氏は言う。科学との結びつきが不可欠な現代スポーツは、高い才能を持つプレイヤーと並び、指導者、分析担当の比重が大きい。「大学では動作分析の専門学科もあり、もし面接で『高校時代に動画で動作分析をしてきた』とアピールできれば大学関係者も驚くに違いない。スワイプビデオに触れたことを機に、スポーツを支える分野への興味が出てくれば面白い」(菅原氏)。

 ドコモでは、2011年の東日本大震災以降、社会課題の解決に向けてICTを活用した街づくりを積極的に推し進めてきた。ドコモCS東北 法人営業部長の山田広之氏は「その中で近年、教育分野が大きなウェートを占めている。ドコモは教育用のデバイスの導入だけでなく、学校内外でストレスなく使用できるLTEや5G通信環境の提供はもちろん、ICT研修体系整備、課題解決へ向けたソリューションの提案など、先生方が教育に集中できる環境を提供しながら新たな教育現場の実現をサポートしたい。今回のような取り組みは一朝一夕でできるものではなく、仙台育英が文武両道でしっかりと地域に根づいた教育を展開されているからこそ実現した」と話す。

ドコモCS東北 法人営業部長 山田広之氏

 2020年春からは5Gの商用サービスが始まり、大容量の高速通信、端末の多接続、低遅延といったメリットを日常的に享受できる世界が見えてきた。今後はスワイプビデオのようなICTツールと5Gを教育現場で融合することで「教育でのさまざまな側面において高度化することが可能になる。仙台育英の時間と空間を超えたチャレンジをお手伝いしたい」と山田氏は力を込める。

 仙台育英も5Gへの期待は大きい。「中期的には、生徒それぞれの学びに寄り添える環境を作ることがポイント。新しい学びとして協働学習の導入が進んでおり、学習の個別最適化は避けては通れない。MR、VRなどの映像技術も5Gの環境でより快適になるだろう」(阿部氏)、「宮城野校舎は運動スペースが不足している。5Gになれば高画質のVRを遅延なく視聴できる。限られたスペースで高度な疑似体験ができるようなれば」(菅原氏)と展望を話してくれた。

仙台育英にて

勢いのあるベンチャーを有機的につなぐ

 NTTドコモ東北支社にスワイプビデオを紹介したのは、NTTドコモ・ベンチャーズの篠原敏也氏。過去、ロッキンプールとのコラボや、「DOCOMO Open House 2020」参加のバックアップなどで、長くアマテラスを支援してきた人物だ。

 「2年前からアマテラス社とコミュニケーションをしてきて、いずれ自由視点映像ソリューションのスワイプビデオが、各業界に浸透することを想像し、応援してきた。今回ドコモ東北支社から問い合わせを受けた際も、真っ先に教育現場を大きく変えるソリューションであることを伝え、紹介をした。コロナ禍によってオンラインベースの思考が追い風になったことは間違いないが、一人の先生が数十人を指導する教育現場にとっては、まさに先生のサポートツールになりうるし、何よりも生徒が自分の実技を多視点で分析、自宅に帰宅した後も復習が可能であることに今回の取り組みの意義があると考えている」(篠原氏)

上がNTTドコモ・ベンチャーズの篠原敏也氏。仙台育英とはオンラインで結んだ

 篠原氏はこのようなICT教育が、今後生徒自身のキャリアに大きく貢献することも期待している。「例えばスポーツの世界でプロとしてのキャリアを終えた方が、引退後もICTを活用した指導やデータアナリティクスなどを武器に活躍できるのではと考えており、若いうちにからこのようなICTソリューションに触れられることは学生にとってはプラスになると考えている」(篠原氏)。

 アマテラス代表取締役CEOの下城伸也氏は「これからの動画教材は、2D動画から3D動画へとリッチになっていくべきだ。2Dでは伝わらない角度を360度のアングルで伝えられることはメリットであり、新たな発見があることで仙台育英学園さんにも喜んでいただいている」と語る。生配信の仕組みでは20台のiPhone(仙台育英ではiPhone SEを使用)による撮影を推奨しているが、5Gになれば一気に台数を増やすことができるという。

オンラインで回答したアマテラス 代表取締役CEO 下城伸也氏

 「台数を増やして、よりリッチな映像を配信したいときには5Gはかなり有効。現在4Kの生配信も可能だが、5Gであれば台数を増やしても安定する、そうすればズームしても細部がはっきりと見えるようになる。仙台育英学園さんはスポーツ強豪校なので、中学・高校の授業や部活動でスワイプビデオを活用して成果が出ることは弊社のプロモーションにとっても大変嬉しいことだ」(下城氏)

 最終的な目標は、ユーザー自身がコンテンツを生成して共有し合う「UGC(User Generated Contents)」の世界観だ。自分たちで自由視点映像を作成・閲覧できる方法を身につけることで、「撮影体験と視聴体験のアップデートを体感できる」と下城氏は自信を深める。新機能としてアングル視聴率が加わり、「生徒たちがどの視点でコンテンツを見ているのかを分析すれば、そのデータを次の教育に活かせるだろう」(下城氏)とも。このようにスワイプビデオがもたらす自由視点映像は、次世代の動画教育といった枠を超え、生徒のクリエイティビティや濃密な双方向コミュニケーションまでカバーするポテンシャルを秘めているのだ。

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