「報道は、ちょっと過剰な感がありますが……」――銃剣道についての質問に、スポーツ庁の担当者はそう漏らす。
新学習指導要領で、中学武道の項に「銃剣道」の名前が入ったことが議論を呼んでいる。銃剣道の起源から、「軍国主義への回帰」という批判も上がる一方、実質的な内容としてはこれまでの要領と変わらない、という見方もある。
新潟県知事「恐怖を覚えます」
問題となっているのは、2017年3月31日告示された新学習指導要領の中学校・保健体育の項にある、「内容の取扱い」についての一節だ。
学習指導要領では、体育のうち「武道」として、柔道・剣道・相撲のうちいずれか一つを選択して履修することとなっている。今回はこれに続く一文が、
「学校や地域の実態に応じて、空手道、なぎなた、弓道、合気道、少林寺拳法、銃剣道などについても履修させることができる」
と改正された。この部分が、「中学武道に銃剣道が追加」とクローズアップされ、議論に火を点けたのだ。
日本銃剣道連盟はウェブサイトで、「銃剣道」は戦前の銃剣格闘を前史としつつ、「競技会を主体とした近代的スポーツとして再出発」した武道であるとしている。連盟は「従って、その修練の目標や理論、使術等については槍術や剣道と全く同様のもの」と強調するが、元が軍隊での戦闘術に由来することもあり、たとえば新潟県の米山隆一知事がツイッターで、
「新学習指導要領で選択制とはいえ中学校の武道に『銃剣道』が入るとの事です。私は反対です。柔道、剣道、相撲はルールも整備され、競技人口も多くスポーツとして確立していますが、銃剣道はその状況になく時代錯誤としか言えません。恐怖を覚えます」
とつぶやいたように、「軍国主義的」などという批判が噴出した。
当初の文案では「外されて」いた
J-CASTニュースは4月4日、スポーツ庁政策課学校体育室に取材した。「中学武道に銃剣道が追加」という報道や捉え方は、実態に即しているのだろうか。
「ある面では正しく、ある面では正しくありません」(担当者)
そもそも、問題の部分については、現行の指導要領(2008年告示)では以下のようになっている。
「地域や学校の実態に応じて、なぎなたなどのその他の武道についても履修させることができる」
担当者によれば、銃剣道は元々、この「その他の武道」として、さらに以前の要領から、履修の枠内に入っていたという。
それを今回の改定にあたり、各地の中学校を調査し、導入実績がある武道を具体的に本文に掲出することになった。結果、「一定数の取り組みがあった」として当初認められたのが、「空手道、なぎなた、弓道、合気道、少林寺拳法」。
そこで、2月14日に発表された改正案では、「空手道、なぎなた、弓道、合気道、少林寺拳法など」という形で組み込まれた。ところが、パブリック・コメントとして、「愛好家」らから、銃剣道の名前がないことへの反論があった。
銃剣道側が論拠として挙げたのは、「国体の競技種目であること」「競技人口が約3万人と、名前があるなぎなた(約6000人)などより多いこと」の2点だ。また、全国で1校のみだが、授業に取り入れている中学校も存在する。こうした主張を取り入れる形で、最終的な新要領には「銃剣道」の名前が入ったという。担当者は、
「改正案から『追加』されたというのはそうだが、『学習指導要領に追加』というのは正確ではない。『武道の例として加わった』というのなら正しいと思う」
との見解を示す。
実は「武道」なら、ほかにも…
そもそも、現行の学習指導要領でも、「解説」の中に銃剣道の名前が入っている。巻末の参考資料の欄で、「日本武道協議会加盟団体実施種目」として、
「柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道」
と紹介されているのだ。新要領とまったく同じ顔ぶれである。
もっともこれは、「こんな種目もありますよ、という例」という位置づけで、逆に言えば、どこからどこまでが武道か、というような線引きは行っていない。
「学校長の判断として、武道として安全に指導が行えるようでしたら、ここに挙がっていないものでも履修は可能です」(担当者)
ただし、「我が国固有の伝統と文化により一層触れることができるように」との趣旨もあり、中国拳法など海外の武道は認められないそうだ。
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