生徒指導提要の改訂に関する協力者会議(第3回) 議事要旨:文部科学省 – 文部科学省

基本問題

1.日時

令和3年8月25日(水曜日)10時00分~12時00分

2.場所

Web開催(Webex)

3.議題

  1. 生徒指導上の課題(自殺)に係るヒアリングについて
  2. 生徒指導上の課題(少年非行)に係るヒアリングについて
  3. 生徒指導提要(改訂)の目次構成案
  4. 多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導に関するワーキンググループの設置について
  5. その他

4.出席者

委員

   浅野委員,池辺委員,石隈委員,伊藤委員,伊野委員,大字委員,岡田 俊委員,岡田 弘委員,奥村委員,栗原委員,笹森委員,七條委員,髙田委員,土田委員,野田委員,針谷委員,藤田委員,丸山委員,三田村委員,三村委員,八並座長,山下委員

ヒアリング協力者

   新井委員,宮寺委員 

オブザーバー

   小野 オブザーバー,滝オブザーバー,宮古オブザーバー  

文部科学省

   髙口文部科学戦略官,鈴木生徒指導室長


 

5.議事要旨

【座長】  第3回の生徒指導提要の改訂に関する協力者会議を開催する。


 本日は、生徒指導上の課題に関してヒアリングを行う。先日、文部科学省の「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」において、コロナ禍の状況等を踏まえた審議のまとめが示されたところだが、まずは、審議のまとめを含め自殺の問題に関連して、関西外国語大学外国語学部教授の新井委員よりヒアリングを行った後、少年非行の問題について、科学警察研究所犯罪行動科学部付主任研究官の宮寺委員よりヒアリングを行い、フリートーキングを行う。


 次に、目次構成(案)について、前回会議で御議論いただいた内容を踏まえ、事務局から御説明いただき、その後、私のほうから、改訂版のデジタルテキスト化のイメージ共有も兼ねて、第1章、生徒指導の基礎についてサンプル原稿を作成したので、御説明させていただく。


 なお、本サンプルの内容については、あくまでデジタルテキスト化や記載のイメージの共有を主目的として、早期にお示しさせていただくものであり、今後の議論を踏まえて変更していくものである。


 最後に、前回提示した「多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導に関するワーキンググループ」について、委員候補案を含め、設置については事務局より御説明いただき、残り時間をフリートーキングとさせていただく。


 それでは、生徒指導上の課題に関して、自殺の問題について新井委員より資料1につき、20分程度で御説明をお願いする。


【新井委員】  児童生徒の自殺をめぐる現状や背景、さらにこれらを踏まえて、自殺予防をどのような方向性で進めていけばよいのか、そして課題は何かということについて説明をさせていただく。


 まず、現状と背景について。日本全体の自殺は、1998年に近代日本史上初めて3万人の自殺者数を記録し、その後、14年間3万人台を維持したが、今は2万人を切るというところに近づいている状況。


 この期間、まず、日本の経済が不透明になり、失業者が増え、経済の先行きが見えなくなったこと等により、全体の自殺者数が増えた。そして、2006年に自殺対策基本法が制定されて、国を挙げて自殺の防止に努めた結果、自殺者数は減少した。主な施策としては、中高年の鬱病対策が行われた。これが一定の効果を上げ、このように2万人を切るところまで近づいてきた。人口10万人に対して年間何人の自殺者がいるのかという比率である自殺率も、資料のとおり下がってきている。16.7というのが昨年の自殺率である。


 このように全体の自殺者は減っているけれども、中学生、高校生の自殺者の数は増えている。小学生も入れると昨年が499人と、非常に深刻な状況にある。ここ5年間、上昇傾向が続いているという現状。昨年は、小学生も14人、そして中学生146人、高校生、339人が自ら命を絶ってしまった。


 先進国の若者の死因を見ると、自殺が死因の第1位というのは日本だけである。韓国は日本以上に自殺が深刻だが、若者の自殺死亡率については同じ数字を示している。


 そして30歳未満の死因を見ると、15歳から29歳までは、自殺が死因の約50%を占めている。10歳から14歳、小学校4年生から中3を迎えるまででも、2割を少し超える比率を示している。


 子供たちの自殺には大人と少し異なる特徴がある。1つは非常に衝動性が高いということ。自殺衝動が高まってから実際に行動化するまでの時間が短いケースが多い。また、未遂者からの聴き取りで、きっかけとなる出来事から決行までの記憶がほとんどないというケースもみられる。


 それから、本人にとっては重大なことだけれども、大人からはささいに見える動機という場合もある。


 そして、子供たちは死に近いところにあるのではないかということ。これは北海道の学校保健審議会の調査だが、自殺や死について、1日に何回か細部にわたって考える割合が、高2で3.0、中2で2.4、小5でも1.3%となっている。自殺や死について、1週間に数回、数分間にわたって考えることがある割合は、高2、中2、小5でそれぞれ7.4、5.3、4.2%と示されている。また、テレビの番組が自殺場面を平気で流したり、インターネット上には自殺補助サイトが数限りなくあることなどを考えると、子供たちは死に近いところにあるのではないか。


 そして、子供たちは大人と異なる死生観をもつ。佐世保の小6女子児童殺害事件の翌年、長崎県教委が調査をした結果をみると、「死んだ人は生き返ると思いますか」という質問項目に、小4から中2の子供たちのうち、15.5%の子が「はい」と答えている。


 兵庫県の生と死を考える会でも同様の調査を実施した。人は死なない、死は不可避であるという意識については98%定着しているけれども、死の不可逆性、人は死んだら二度と生き返らないという感覚が10人に1人程度定着していないということが言える。


 2016年に調査した結果を見ると、「死んだ人は生き返る。大体そう思う、とてもそう思う」という回答を合わせると、小5で2割を超える。中学生で約18%、高校生でも15%近い。


 そして、子供たちは敏感で傷つきやすい。そのために他者の死の影響を強く受ける。グラフのとおり、前の年に比べて40%から50%、急に自殺が増える年がある。アイドルの自殺やいじめ自殺等があって、報道が繰り返される中で、自殺の連鎖が起きてしまう。


 昨年の月別の自殺者数のグラフを見ると、6月、8月、11月の自殺者数が際だって多い。6月は休校が明けて再開された時期。これまで、9月1日は特に自殺の多い日となっている。おそらく、新学期の始まりに、学校生活への一歩を踏み出すのが難しい子供たちの間で、強い不安やストレスを感じることがあって、自殺の衝動が急激に高まり、行動化されているのではないか。昨年に関しては、学校の夏休みが前倒しで早く終わって、2学期が8月20日前後から始まったことが、大きく影響しているものと思われる。5月から9月にかけて有名人等の自殺があり、非常に数多く報道がなされた。さらにコロナの中で社会不安が高まる中、コロナで命を落とすか、失業等、経済が回らないことによる自殺で命を落とすかという報道もあった。これらのことが強く影響したのではないか。


 8月の自殺は、一昨年だと男子が18人、女子が4人であった。ところが昨年は、女子の自殺者数が23人になっている。そしてその後も、1桁で推移していた女子高校生の自殺者数が、23から16、10、18、10と、2桁で推移している。女子高校生の自殺が前年に比べて65%上がっている。


 リスクの高い児童生徒はどのような背景を持っているのだろうか。例えば、いじめが直接自殺の原因というように、単一の原因に帰せられるケースのほうがはむしろ少ない。個人の要因や家庭の要因等、様々な要因が重なり、複合的な要因が絡み合っている中で、自殺が起きてしまうと捉えるべきなのではないか。


 この資料は平成21年から30年まで、警察庁が児童生徒の自殺の原因・動機を累積して分析したもの。小中高、発達段階に応じて随分と様相が変わるのが分かる。小学生は家庭の問題が圧倒的に多い。中学生になると、家庭の問題に加えて、男子は学業不振、女子は学友との人間関係が出てくる。いじめに関しては3.6と3.5%、小学校の女子が9.5でやや高いが、全体的には約2%から4%の数字を示している。


 高校生になると様子が変わって、女子は鬱病、鬱病以外の精神疾患、これが1位、2位の原因となる。3番目に進路の悩みがくる。男子は学業不振と進路の悩みの後に、鬱病が原因として上がってくる。子供たちの自殺の背景に、1つは学業や進路に関わる学校の問題、それから家庭の問題、そして精神疾患等病気の問題、この3つが大きく背景としてあるということが言えると思う。


 自殺の危険因子となるものを資料に示した。自殺のキーワードは孤立である。「自分は独りぼっちだ」、「誰も自分のことなんか心配していない」、「自分なんかいないほうがいいのではないか」という思いが、人を自殺に追いやるところがある。恐らく自殺の多くは、生きていたいけれどもそれができず追い詰められて死という選択肢しか浮かばなくなり、そして死を選ばざるを得なくなるという強いられた死であると思う。子供たちの自殺という、本当に悲しくて深刻な問題を、何としても防いでいくことが喫緊の課題だと思う。


 次に、家庭の問題。不安定な家庭は自殺の危険を高める。コロナの中で学校に行く機会がなくなった。家に居場所がなく、学校に行って友達と雑談をし、あるいは、先生とのちょっとしたやり取りの中で気持ちを癒やしていた子は、そのような場を失ってしまった。一方で、学校がつらく、家が唯一の居場所であった子は、コロナで親が在宅勤務になったりして、家が居場所でなくなってしまったケースもある。学校、家庭、以外の居場所も必要なのだと思う。


 病気や学業不振等、何か大事なものを失うということが自殺に大きな影響を与える。


 また、自殺未遂は自殺の危険因子である。自殺未遂の生徒が学校に復帰してくるときには、危機介入として迎え入れなければならない。


 そしてリストカットなどの自傷行為経験。中学生、高校生10人に1人程度、女子のほうが多いけれども、経験を持っている。不安でたまらないけれども、切ると落ち着く。アピール行為というわけではない。ひっそり1人で切っていたものが、刺激が足りなくなって、頻度が高まり激しくなると表に出てくる。


 自分の体を傷つけるという普通はできないことをやってしまう行為が、やがて自殺の危険を高める。長期的なスパンで見ると、自傷行為の経験があるかないかで、およそ30倍から100倍、自殺の危険が高まると言われている。


 それから心の病。高校生の年代は、鬱病や統合失調症の好発年齢である。適切な治療を受けていないと自殺につながる場合がある。精神疾患が自殺に直結するのではなくて、適切な治療を受けていないことが自殺につながっていく。自殺未遂者の背景を見ていくと、およそ95%近くが何らかの精神疾患、精神障害等の既往がある。


 そして次に、独特の性格傾向。全か無か、白か黒か。「取りあえず」、「まあまあ」、「ともかく」ということを考えない。そして、何度かの失敗を過度に一般化して、自分はずっと駄目なのではないかと思い込んでしまう傾向も見られる。


また、should statements。何かをしなければならない、自分はこうであらねばならないという価値観が強くしみついてしまい、何がしたいのか出てこなくなってしまう。このように認知に独特な傾向があるケースも比較的多くみられる。


したがって、偏った認知の傾向を持っている子たちに対して、少しでも柔軟な思考が抱けるような働きかけをするというのも、自殺予防の中で非常に大事になってくると思う。そして、無意識的な自己破壊行動も危険因子の一つ。


自殺の行動化がなぜ起こるのか。非常に強いストレスがかかり、独りぼっちだという孤立感が強まり、自分なんかいないほうがいい、周りに負担をかけているのではないか、という自己否定感情が高まり、これらが重なってくると自殺願望が生まれると思われる。


 およそ2割の方が生涯のどこかで自殺願望を抱くと言われている。しかし実際に行動化するのは10万人に16人ないし17人と極めて少ない。自殺大国と言われている日本でもそのぐらいの比率。なぜ行動化してしまうのか。ジョイナーは自殺潜在能力ということを指摘している。自傷行為の経験から自分の体を傷つける能力を持ってしまったり、自分の体を守ろうと思えないぐらい激しい暴力にさらされどうでもいいという思いに駆られたりしてしまうと、自殺の行動化が起きるのではないかという捉え方である。


 学校はストレスのかかるところではあるが、適度かどうか、そして独りぼっちになっていないかどうか、自己肯定感が下がっていないかどうかを確認し、自分の身も心も安全に保ち、他者の身も心も安全に保つように働きかけていこうという思考、態度を子供たちが養っていくことが大事だと思う。


 これらを踏まえ自殺予防の方向性と課題を考える。自殺予防には3段階ある。Prevention、未然防止。全ての児童生徒を対象とする自殺予防教育がこれに当たる。自殺の危険が高まってきた子供に気づき、そして自殺を防ぐように関わっていく。これがIntervention、危機介入。Postventionも実は自殺予防である。亡くなった子の周辺にいる子、強い影響を受けている子が、心の傷を負うと、最悪の場合、連鎖を生み、あるいは連鎖にならなくてもそれを引きずってしまうことがある。そうならないように心のケアをしていくという意味で、予防である。


 全ての児童生徒を対象に「未来を生きぬく力」を育む自殺予防教育、これが成長を促す生徒指導、開発的予防的な生徒指導・教育相談というところに重なってくると思う。そして問題解決的、課題解決的な生徒指導・教育相談、これが危機介入、そして事後の心のケアに当たるのではないかと思う。


 2014年に「子供に伝えたい自殺予防」という、児童生徒を直接対象にする自殺予防教育のガイドブックを作製した。


 目標は大きく2つある。1つは自他の心の危機に気づくということ。もう1つは気づいたら援助を求める、相談する力を育むということ。直接児童生徒を対象にする自殺予防教育を進めるために、まずは教員研修が必要ということで、全国を10ブロックに分けて、自殺予防の普及啓発会議での研修を進めてきたが、まだ十分には広まっていない。


 子供、若者の自殺が減らないという状況から、2016年に自殺対策基本法が改正された中で、自殺予防を含む児童生徒等の心の健康の保持に係る教育・啓発を進めることが努力義務として示された。翌年の3度目の自殺総合対策大綱の閣議決定が行われた中で、SOSの出し方に関する教育を進めることも努力義務として示された。


 文科省としては、安心・安全な学校環境をつくり、そして既に行われている生と死の教育、ストレスマネジメント、あるいは学級集団づくり、人間関係づくり等を下地として展開しながら、中学生、高校生に関しては、心の危機理解、相談する力を育むということに焦点化した核となる授業を進めていくこととした。心の危機理解ということに関しては、保健体育の授業、孝行では心の病という単元、中学ではストレス対処についての単元で実施することも考えられる。また、SOSの出し方に関する教育は、この全体の構成の中で言うと、相談する力を育むというところに重なるものであると考えられる。


 心の危機理解、相談する力を育むということは、全体を貫く目標でもある。例えば、安心安全な環境として、相談体制を充実させることをあげているが、生活アンケートをしたり、先生と面談したりすることを通じて、心の危機に目を向けたり、相談することの大事に気づいたりすることができるようになっていくのではないか。


 そして、全ての児童生徒を対象とする予防教育と併せて、リスクの高い子に関わっていく取組をしないと、自殺予防は進まないと思う。


 2009年に出した、「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」の中で、どのようにリスクの高い子に関わるのかということを示してある。自殺の危険が高まると心理的な視野狭窄が起きており、様々な選択肢があるにもかかわらず、それらが思い浮かばないため、死というものが唯一の選択肢のように見えてしまう。そのときに周りにいる人ができることは、子供たちの肩をぽんとたたいて、視野を広げて、それ以外の選択肢があること、独りぼっちでないことを知らせるということだと思う。


 先ほど申したように、高校生は鬱病の好発年齢である。したがって、体が健康だと気づきにくいことがあるのだけれども、追いつめられた気持ちになっているときに鬱病の可能性があるということも視野に入れて、抑鬱状態に自分あるいは周りが気づくことが求められる。気づいたら相談をする。相談をしようと言う以上は、相談をされた側がその相談をしっかりと受け止めることが不可欠。相談をしたくなるような信頼できる存在に、身近な大人がなっているかどうかというのが非常に重要だと思う。


 そして死を訴えた場合にはTALKの原則で関わっていく。これはカナダのNPOの自殺予防の原則である。まずは独りぼっちではない、心配しているということを言葉に出して伝える。そして死にたいと思うほどつらい背景にあるものは何か尋ねる。絶望的な気持ちをしっかり聞く。死にたいという気持ちは生きたいという気持ちの裏返しだと思う。話をそらす、叱責、助言をするのではなくて、しっかりと話を聞いた上で安全を確保する。


 「子供に伝えたい自殺予防」の中では、「きづいて、よりそい、うけとめて、しんらいできる大人に、つたえよう」をキャッチフレーズにしている。安全を確保できる体制を、学校や地域に築くことが、我々がしなければならないことである。


 自殺というような問題は、とても1人で抱えることなどできない。学校の内外で協働体制を築き、チームを組んで当たっていくことが必要。学校にある生徒指導部、生徒指導委員会、いじめ防止対策委員会、不登校委員会等が実際に機能するかどうか。


 特に自殺予防に関しては、構成員が心理的安全性をこの組織の中で感じているかどうかが非常に大きいと思う。不安なこと、心配なこと等、自分の懸念を周りの人に言えて、言われた方はそれを拾い上げてそしてみんなで対応していく。心理的安全性を持った組織を、学校の中で、あるいは地域との連携の中でつくっていけるかが非常に大きい。


 また、家庭の問題が、特に年齢が若ければ若いほど大き区影響する。したがって、家庭とどう連携するか。そして、学校以外の関係機関とどう連携をしていくのか。そのときに、顔の見える関係がないとなかなかうまくつながれず、効果的な支援ができない。連携がうまくいくためには、コーディネーターの果たす役割が非常に大きいのではないか。


 「緊急対応の手引き」、に事後対応の内容が示されている。保護者も含め周囲にいる子供たち、あるいは教職員への心のケアも必要。いち早く専門家の協力を得ることが大事と思う。


 事後対応に際しては、教職員にもダメージがあり、対応能力は落ちる。その場合、どうしても人員が足りず、疲弊していく。人員の確保ということも、心のケアを進める上での大きな課題になろうかと思う。


 このようなことを踏まえて、これからの対応の方向性をどう考えたらよいのか。


 今、教員研修を進めているけれども、一層の拡充が必要と思う。そして保護者を対象とした普及啓発研修の展開が求められるのではないか。そして学校の中で自殺予防教育プログラムを体系化し、カリキュラムの中に位置づけられるものは位置づけて、下地づくりの授業、そして核となる授業を展開していく。


 教員が年に1回、どこかで自殺予防に関する授業を協働でつくり上げることがとても大事だと思う。そのときにスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーのマンパワーを確保して、専門家と協力しながら授業を進めていく。授業を進めていく中で、リスクの高い子があぶり出されてくる場合がある。したがって事前事後のアンケートを取って配慮するのと同時に、フォローアップ体制を医療機関と連携しながら整えていく。その際、養護教諭の果たす役割というのは非常に大きい。


 リスクの高い子供への関わりとしては、SOSを発信するための多様なチャンネルを用意することが不可欠。そのため、SNSを活用した相談体制の充実が重要。リスクの高い子は大人に対する不信感が強く、友達に相談することが多い。したがって子供が子供のSOSを聞くときにそれをどう大人に伝えていくか、という力を育むことも必要だろう。


 そして教職員が授業を重ねることによって、自殺や死についての理解を深化させることが、SOSを受け止める力を伸ばしていくことにつながっていくのではないか。今後、ICT等を活用した客観的な児童生徒理解と、顔を合わせて、子供の身になって理解していく共感的理解とを重ね合わせた多面的な児童生徒理解が必要になってくると思う。


 関係機関等の連携の中で、コーディネーターとなる教職員、できれば授業を持たずに、生徒指導・教育相談、自殺予防やいじめのことを統括できるようなコーディネーター役の教員が配置されることが望まれる。中学校、高校には生徒指導主事がいるが、その機能を一層高める体制をつくる。小学校にも、担任をしない生徒指導主事を置くようにする。そのような形で、生徒指導・教育相談を包括して、自殺予防につなげるような役割を果たす教員の配置があるといいと思う。


 自殺対策基本法の改正やSOSの出し方教育は、2010年の生徒指導提要に書かれていない。改訂の際には、その辺を追記し、方向性を示していくということが重要と思う。


【座長】  続いて、少年非行の問題について、宮寺委員より資料2に基づき、20分程度で御説明をお願いしたい。


【宮寺委員】  近年の少年非行の状況について、統計から見た現況を概観し、少年非行に関わる研究者、実務家の意見等を文献から整理し、その背景に関わる問題について報告させていただく。


 昭和24年から令和元年までの刑法犯少年のグラフを見ると、近年の状況としては、90年代の半ばから2000年初頭で、刑法犯少年の検挙人員に若干の増加が見られた。ところがそれ以降は減少が続いている様子が見て取れる。触法少年の補導人員も減少が続いている。基本的に、これは少子化を受けてということと思われるが、同年齢帯の人口に占める割合である人口比も同様に減っており、特に成人の人口比は従来、少年のそれよりも低かったが、近年は少年と成人の人口比が変わらないような状況になってきている。


 ぐ犯少年と不良行為少年の補導人員の推移について見ると、ぐ犯少年は低く推移しているが、不良行為少年は大きな波が今まで3つほどあったが、こちらも近年は非常に大きく減少している状況にある。


 次に刑法犯の包括罪種別にみる。警察統計における包括罪種になるが、刑法犯少年、触法少年ともに大きく減少している。特に、謙虚・補導人員が一番多い窃盗犯で非常に大きく減少している様子が分かる。


 刑法犯少年・触法少年、両方込みで見た場合、年齢別では、およそ20年前は、15歳、16歳の人員数が非常に多くなっていたが、それが減少して、およそ2008年に、14歳と大体同じくらいにまで下がっていっている。17歳についても、15、16歳と同じような動きをしている。


 これを学職別で見ると、中高生が大きく減少していることが分かる。


 男女別で触法少年込みの刑法犯の検挙・補導人員数を見ると、基本的に男女どちらも減少しているが、女子の比率はおよそ2007年から減少し、最近は、15%程度まで上昇しているが、恐らく、女子の減少が底を打っている状況に対し、男子の減少率が相対的に大きいために、逆に女子の比率が上がっていると思われる。


 続いて罪種別にみていく。刑法犯の過半数を占めるのが窃盗犯になるが、その内訳を見ると、非侵入窃盗、乗り物盗が大きく減っている。


 粗暴犯を見ると、傷害、恐喝が大きく減っている。一方、暴行は比較的横ばいで推移している。


 次に凶悪犯を見ると、強盗が大きく減少している様子が分かる。先ほどの恐喝と合わせて、略奪的非行と分類されるが、それらが減少しているといえる。


 一方、相対的に少ない凶悪犯を見ると、強制性交等が2006年頃まで大きく減少して以降、横ばいの状況が続いている。殺人や放火は漸減傾向にある。


 次は街頭犯罪だが、これは、路上強盗、ひったくり、車上ねらい、部品ねらい、自動販売機ねらい、自動車盗、オートバイ盗、自転車盗の8種類を警察の統計で示している。グラフをみると街頭犯罪そのものも減っており、特に成人に比べての少年の減り方が大きい様子がうかがえる。これを比率でみると、少年の比率も大体2014年までは50%後半で推移していたが、2004年以降から大きく低下し、2019年度は35%となっている。


 ここまでのまとめとしては、基本的に窃盗犯の減少は、警察の取締りの強化など、警察活動の方針もある程度影響することを否定できないが、粗暴犯や殺人、強盗など、いわゆる暗数の少ないと思われる罪種でも減少していることを踏まえると、実質的に非行が減少していると思われる。一方、暴行や強制性交は比較的横ばいであるという点は、後ほどの言及とつなげて考える。


 次は共犯率である。基本的に少年非行は共犯率が高いと言われている。グラフは刑法犯検挙件数に占める共犯事件の割合で、成人が近年でも約10%の共犯率に対して、少年は2割強ということで、少年の共犯率は高いが、その推移を見ると、この20年で継続的に減少している様子が分かる。特にこれを罪種別で見ると、窃盗犯は比較的横ばいだが、凶悪犯や粗暴犯、さらに街頭犯罪、路上強盗は、おおむね下がっている様子が分かる。全般的に共犯率が減少してきている。


 こうした共犯という仲間との非行として、非行集団を考える必要があるため、その代表例として暴走族の統計を見る。暴走族少年は2006年頃までに急速に減少し、以降も減少が続いている。暴走族の成人も減少しているが、減少率は少年よりも低く、平成30年あたりでは、少年よりも成人のほうが多くなる逆転が起きている。また、暴走族におけるグループ加入者率を見ると、成人込みの値ではあるが、20年前の6割弱から現在は2割弱まで大きく減少している様子が分かる。


 ここまでをまとめると、基本的に街頭犯罪が減少し、共犯率も減少している。さらに暴走族も減少しており、非行集団そのものの減少、縮小が見て取れる。また街頭犯罪、暴走族という点で言えば、いわゆる屋外で行われる非行が減少しているということもできる。


 次に校内暴力だが、こちらは触法少年込みのデータになる。校内暴力で検挙・補導された少年の人員数は特に2013年以降減少しており、このうち生徒間暴力等の対教師暴力の割合も大きく減少している様子がみられる。そのグラフの横に、校内暴力の検挙・補導人員における学職の割合を折れ線グラフで示しているが、2013年あたりから中学生の割合が減少する一方、小学生の割合が上昇している。


 次は、校内暴力のうちの対教師暴力の検挙・補導人員を示したグラフであるが、こちらも2013年以降減少しており、その学職の割合を見ると、2015年以降、中学生の割合が減少する一方、小学生の割合が増加している。


 ここまで、減少している罪種等ばかりであったが、逆に増加しているものを見ると、例えば性犯罪のうち、強制わいせつは、上下動がありながらも、右肩上がりの傾向が見られる。強制性交等は横ばいの状況にある。特殊詐欺で検挙された少年の数は、2009年以降統計が取られてから非常に大きく上がっているが、2019年は下がっており、令和2年のデータを見るとさらに下がっている。この辺りは犯行形態の変化や捜査活動等の影響も考えられる。


 次は薬物の乱用だが、薬物事犯で検挙した犯罪少年の人数を見ると、シンナー等の摂取、所持で検挙したシンナー等乱用少年の数は大きく減少していて、もう近年はほとんど見られていない。一方、大麻事犯は、2013年頃から徐々に増加しており、令和2年もさらに887人まで増えている状況である。


 増加傾向のものとして、非行ではないが、児童ポルノ事犯の被害児童数を棒グラフで示した。継続的に大きく上昇が続いている。


 次に再犯と初犯の問題をみていく。刑法犯少年の初犯者と再犯者は双方とも減少しているが、初犯少年が急激に減少している一方、再犯少年の減少が比較的に緩やかであり、その結果として再犯者率が上昇していたものが、近年、その再犯者率も若干減少に入っている様子が見られる。


 初発型非行についての検挙人員を見ても、いずれの罪種も減少しているが、特に万引きや占有離脱物横領が大きく減っている。


 さらに、初犯者という観点から、警察の補導の対象になる不良行為少年を見ていく。喫煙は2007年以降減少が続いており、飲酒も2003年以降減少が続き、2016年で底を打っているような状況である。


 次のグラフでは、不良交友と深夜徘回による不良行為少年について2007年以降大きく減少している様子が分かる。


 不良行為少年のうち家庭にまつわる問題として3種類の不良行為を見る。家出は2004年頃までに大きく減少しているが、以降は横ばいになっている。無断外泊は減少傾向が続いているが、特に2013年以降に下がっている様子が見られる。金品持ち出しは比較的横ばいである。


 こう見ると、これまで問題となっていた非行の再犯者率が近年減少していること、また非行の入り口とされる初発型非行や不良行為も不良交友の関係で減少している様子が見られる。それに対して、家庭の問題は横ばいという印象がある。


 家庭の問題ということで家庭内暴力について見てみたい。少年相談や補導活動を通じて警察が認知した少年の家庭内暴力事案の数を見ると、2010年以降大きく増加している。学職別で見ると、特に小学生が、過去20年間一貫して徐々に増加しているが、2013年以降、特に上昇が目につく。


 最後、警察の専門の相談員が少年の非行問題、いじめ等に関する相談を受けて、支援を行っている少年相談の統計を見る。少年相談の件数は2014年までは減少しているが、近年上昇に転じている様子がU字型として見られる。その相談内容の種別を折れ線グラフで示している。従来は非行問題が一番多かったが、2012年あたりで減少に転じる一方、家庭問題が上昇しており、家庭問題はそれ以降さらに急激に増加している。家出は継続的に減少している。


 少年が屋外で非行を行わず、家にいるということと関係するのではないか。特に、家庭の中で少年と親、もしくはほかの家族との葛藤が増大しているのではないかと推察される。少年相談の場合、家庭問題はしつけの問題として相談が多いといわれる。身近に相談できる相手がおらず、子育てに自信がなく、問題を抱え込んでしまう保護者の孤独が指摘されている。


 現行の生徒指導提要が平成22年に出ているということで、平成22年から今までの中での研究者、実務家の報告を参照しながら、データとの突き合わせを行って意見をまとめた。


 まず、1つ目のポイントが、非行集団や非行仲間の減少である。共犯率が減少していること、街頭犯罪・暴走族が減少していること、また深夜徘回、不良交友も減っているということであるが、このこととあわせて、犯罪心理学あるいは精神医学における指摘として、基本的に対人コミュニケーションのスキルが非常に低い子供が多いために、仲間関係の維持が不得手であることと連動しているのではないかとの声がある。


 またその一方、非行仲間というのは、いわゆる先輩、後輩等がいるわけだが、そうした仲間の中で犯罪の知識や技術が学習されていかない、非行文化が伝承されていかない、その結果として、非行、犯行が稚拙になっているのではないかという指摘もある。基本的に、犯罪の知識等が伝承されていかないのは、それ自体望ましいことではあるけれども、例えば暴力の手加減は、ここまではやっていいけどこれ以上は駄目だというようなことが伝承されないために、加減を知らずに激しい暴力を振るってしまい、相手にひどいけがを負わせるようなこともあるという指摘もある。


 2つ目のポイントとして、衝動的な非行が挙げられる。特に、校内暴力とか家庭内暴力で小学生が増えていることと関連した指摘がある。これはかつての集団による学校暴力とは異なり、感情コントロールの未熟な個人が衝動的に暴力を振るうという指摘である。小学生が凶悪化していると見るべきではなく、むしろ未熟な感情処理であるとか、コミュニケーションができないといった、その結果としてこういった問題が起こっていると思われる。


 また、衝動性という観点からは、性犯罪でも、例えばスマホを使った盗撮では、衝動的に非行を行うと指摘がある。特に、性犯罪は苦痛やストレスから犯行に至ると言われているが、それは性的満足だけではなくて、達成感や優越感等、心理的報酬を得ているということも指摘される。


 3つめのポイントとして、インターネットの問題がある。インターネットによって顔の見えない相手と簡単に接触できるために、手軽に大金を稼げるアルバイトとして特殊詐欺の受け子になってしまうであるとか、あるいはSNSで知り合った相手から自画撮りの被害を受けてしまうということがある。今はネットで誰とでもつながれることで、物理的距離がなくなるだけでなく、大人と青少年のいわゆる文化的な境界がなくなったということも指摘される。小学生と大人の二項対立的な構造自体が消失しているのではないかという見方である。


 さらに、対人コミュニケーションの機会がもともと少ないのが、インターネットによって余計に少なくなっているという面がある。特に対面による活動を通じたコミュニケーションや、対面で心を伝えるという機会が減っている。それによって対人スキルが鍛えられず、コミュニケーションが回避的であったり、あるいは一方的だったりするというようなことがある。


 


 対人スキルの乏しさやコミュニケーションの一方向性という部分に焦点を当てれば、その背景には、発達障害や虐待の問題と重なる部分がみえてくる。ただし、発達障害や虐待があるから、必ず二次障害としての非行等、問題行動が起こるということでは決してないということを御理解いただきたい。


 少年鑑別所の新収容者における知的障害、発達障害の割合の推移を見ると、知的障害と発達障害の割合が近年徐々に増えている。しかし、犯罪の非行の多くを占める、いわゆる障害等のない少年たちの非行が減ってい一方、知的障害等の脆弱性を持った少年たちの非行の減り具合は恐らく相対的に低いため、結果的に知的障害や発達障害を伴う非行少年の割合が相対的に高く出現していると考えたほうが良いと思う。


 知的障害の関係で1点お伝えしたいのは、DSM-4ではIQ71から84までを境界知能として、70以下を知的障害としていたが、この境界知能に当たる知的障害とは診断されない人たちが、いわゆる正規分布から計算すると14%程度いると言われる。柔軟な対応が苦手なので、困ったときに初めて健常者との違いが出るということがあり、周囲から支援が必要でないと誤解されたり、本人も普通を装ったりして支援を拒否するという問題があるので、非行少年における境界知能は重要な問題であるという指摘がある。


 これらの障害に対する周囲の不適切な対応や支援そのものが、実は非行のリスクになるといわれる。不適切な対応とは、例えば、社会的な孤立、家族からの虐待、過度の叱責、いじめ等を指す。こうした不適切な対応の結果、少年は自己評価が下がり、不信感が募り、結果として内向化すれば抑鬱になり、外向化すれば非行という問題行動になって現れる。


 虐待についていえば、虐待に関する過去の調査結果を見ると、非行少年の大体4人から5人のうち1人に、被虐待経験があるということがうかがえる。こうした被害を受けると、結果的にどういうコーピングをするかをまとめた、いわゆるトラウマモデルによれば、被害を受けて最初は傷つき、怒り、絶望するが、その後に自分の安心とコントロール感を回復するために、防衛的対処として他者に無関心になったり、あるいは攻撃的態度になると言われている。


 その中で大きな問題としては、情動のコントロールと情報処理ということが言われている。情動のコントロールは恐怖や怒りが、結局コントロールできずに行動化されたり、場合によっては解離を引き起こしたりする。情報処理の問題については、認知機能の問題があるために社会的手がかりを適切に処理できない。例えば、他人が別に敵意を持ってぶつかってきたわけではないのに、相手が攻撃してきたと思って攻撃し返してしまうというようなことがある。こうしたことが続くと、周囲との対人関係がゆがんでいき、対人不信になり、結果的に問題行動が出るという流れになる、として説明されている。


 このような被害を受けた少年に対してはソーシャルサポートが非常に大事になるわけだが、特に友人よりも大人のサポートほうが重要である。大人のほうが知識も経験もあり、心理的にも成熟しているためである。我々が行った調査によれば、父親、母親、友人のサポート得点を、被害がなかった人、被害一種群、被害多種群で分けているが、親のサポートは一般群のほうが高い。ところが、非行少年は友人のほうのサポートが高い。本来は親からのサポートが必要であるにもかかわらず、非行少年、さらに被害の多い者ほどソーシャルサポートを受けにくい、こういう逆境的な状況があるということになる。


 また、認知の問題については、実行機能という高次の認知機能に関する指摘がある。これは目標を設定して、計画を立てて、実行しながら、モニタリングし、効果的に遂行していくという概念を指す。この実行機能の問題は発達障害に多いと言われるが、最近は被虐待経験者や、さらには非行少年の背景にも多く見られると指摘されている。


 例えば、厳格な体罰を受けた児童は、実際にその実行機能と関連する脳部位の容積が減少しているという研究がある。つまり虐待等の被害が脳に物理的に影響を与えることによって、認知機能の低下に影響している、という指摘である。


 そういった二次障害につながらないためにも、そうした問題のサインが小学生といった早い段階で出ているのに対し、それらを早くから拾い上げて対処する必要がある。資料には例えばということで不注意症状のチェックリストを示しているが、こういったものを参考にチェックを行いながら、なるべく早い段階で教員が気づき、そして機関連携を含めながら、対応をチームとして進めることが極めて大事になるのだと思われる。


 最後に補足として、問題があったときに児童や生徒から情報収集を行うと思うが、犯罪被害の関係では、いわゆる司法面接という手法がある。被害に遭った子供から事情聴取をする際に、誘導せずに、正確な情報をより多く引き出すという技法である。これは学校の先生にも極めて有効かと思う。


 児童や生徒から話を続けて聴いていくと、場合によっては齟齬が出てくることがある。先に言ったのとここは違うけれどどうなのかという形で聞いていくことで、嘘も分かってくる。このような質問の仕方についても、ぜひ知見を広めていただければと思う。


【座長】  ただいまの新井委員、宮寺委員からの御説明について、フリートーキングを行う。


【委員】  自殺の予防から得たヒントを生徒指導全体に広げることで、年に1回の自殺への勉強会だけではなくて、日々の子供への関わりで使えるところがあるのではないかと思う。自殺予防を通して分かったことで、全ての子供に対する生徒指導に大事だというものがあれば、教えていただきたい。


【新井委員】  SOSを出すように子供たちに言うけれども、リスクの高い子ほどSOSを出さない。その子たちは、意外なところ、例えば掃除監督を週に1回だけしている教員や校務員さんに相談するというようなことがある。そのため、相談されたときにそれをキャッチできる力を、みんなが持っていなくてはならない。


その子のリスクの高さを、一握りの人間が知っているだけだと、知らない人間は、そのサインを拾えない。だからみんなで情報を共有しながら、みんなでその子を育てていくという観点が、自殺予防において極めて重要。それは生徒指導一般でも同じこと。


 自殺をしてしまう子も非行に走る子も、抱えている背景は同じで、そういう子たちがリスクを高めて何らかのサインを出したときに、一番近い人だけじゃなくて、ちょっと斜めの関係にいる人も気づくような体制と意識を学校の内外でつくっていく。特に教職員は学校の中でキャッチする機会が多いから、自分のクラスや部活はもとより、その他の場面でも、キャッチできるような態勢、姿勢をつくれば、リスクの高い子のサインを拾っていけるのではないか。


【座長】  2006年には、小中学生に小児鬱の子が多いということで話題になった


 既に15年ほど前からこのような意識はあったが、今、新井委員のお話を聞くと、健康教育と連動した生徒指導、あるいは医療と連動した生徒指導が今後必要だろうと思う。


 精神疾患の学習に関しては、高校の保健体育で令和4年度以降実施することになっているが、小学校段階からこのような予防教育が必要だろうと思う。


 それからもう一つは、先ほどの子供のSOSの出し方教育について。いじめに関しては、原因も特定されていて、それから遺書が残される、あるいはSNSで予兆的な訴えなどがある等、明確である。特に平成30年の総務省のいじめ重大事態の調査報告書の分析からも、いじめで自死する子供たちが、予兆を出しているという報告もあった。


 生活ノートに、いろんな暴力行為を受けている、死にたいと書いたが、うまく共有されなかったというケースがあった。あるいは直近の自死事案に関しても、これは報道だけだが、画像の拡散等、ひどいいじめがあった。すると、大人であっても恐怖を抱き、また、ネットでの拡散等、自分の未来に関わるものについては絶望的になる。


 その場合、やはり子供のSOSの出し方だけでなく、受け手側の教員の迅速な対応、組織対応が非常に重要と思う。


 その中で、防げる自死をしっかりと防ぐという意識を教員が持って生徒指導を行うことが大切と思う。防げる自死に対しては防いでいくという姿勢を持っていくということも、提要で盛り込んだほうがいいと思う。


【新井委員】  こちらから色々なことに気づこうとしていく。気づいたら、1人で抱えずに、周りの先生、養護教諭、管理職と相談してやっていく。


 1つは、そのような対応ができる実効的な、そして心理的安全性が保障できているような組織に学校がなっているかどうかということ。


 それから、人の話をじっくり聞くために、心のゆとりと時間のゆとりを教員が持てるかどうかというのは、極めて重要ではないか。


 小学校では、生徒指導主事を置くことができるという規定になっているため、実際に置いているけれども、ほとんど担任を兼務している。授業を持たずに、生徒指導・教育相談、いじめや自殺の問題に、ある程度かかりきりになれるような、生徒指導・教育相談コーディネーターのような人を配置することが大事。そのような人材をマンパワーとして配置することと、その人の仕事の専門性を高めるということをやっていかないとSOSの受け手が育っていかないのではないか。


自殺や死の問題は取り扱うのが難しい。難しいからどうやったらいいか考えることが必要。そのためには、1人ではなくて、例えば学年で共同立案して1時間の授業をつくるという過程を経ることで、先生たちが自殺や死のことを考え、理解し、SOSを受け止める力を伸ばしていくところにつながっていくのではないか。そういう時間を確保していくことが必要だと思う。


【委員】  私から2点。まず自殺予防教育について、適切な教育内容と実施時間の確保というところで、協働的な授業づくり、カリキュラムに位置づけた、年に1回でも、という具体的なところがとてもすっきりした。学校には○○教育というものが極めて多い。


 ただ一方で標準授業時数は、ほとんどが教科の学習を時間内に計画どおり授業を終えることに追われるわけで、その○○教育をどこでどう教えていくのか非常に難しい。総合的な学習の時間、特別活動を活用したりもするけれども、それはそれで別の狙い、意図もある。年に1回やるだけでも効果があること、また養護教諭やスクールカウンセラーと協働的に授業をつくっていくことを聞いて、そのようなところから、手始めに広げていけばいいのかということで、非常にすっきりした。


 今後この生徒指導提要を改訂していく中で、現場がすっきりするようなことが書けるといいかなと。つまりこのカリキュラムにどの程度、どう位置づけていけばいいのか、最低でもここは外してはいけないというところが具体的に示されると、自殺予防教育も一気に進むのではないかと思う。 また、小中高の発達段階において求められるもの、つまり系統性というものを一つ重視する必要があるとも思う。


 それから2点目。40代、50代というベテランの教員で、学年主任をやってきた方たちが、生徒指導ができなくなったケースが多くある。生徒の問題行動への対応が困難になって、メンタルを病むという方が決して少なくない。新たな小学生の非行、あるいは問題行動に対応し切れない人たちが一定程度いる。こういった現状の背景を考え、またこれが生徒指導提要の中に、具体的な学校の取り組むべきこと、考えることとして盛り込まれていくと良いと思う。


【委員】  新井委員がお示しした、自殺予防教育プログラムの温かい人間関係を育む教育を進めていくに当たって、御案内のとおり、15歳から29歳までが精神疾患の発症のピークである。最近子供の鬱に関して、どう捉えられるかということ、それから、双極性障害の中の鬱、特に1型と言われる方々の中での鬱での落ち込みがひどくて、オーバードーズに行ってしまうこともあるのではないかと思うので、その点新井委員からご教示いただきたい。


【新井委員】  脳科学が発達してきて、鬱に対する捉え方も、認知というだけではなくて、睡眠が足りない、それから食事の栄養の問題等、いろいろな見方が出てきている。恐らくそのような問題の影響が、影響を受けやすいところに当然出ていくこともあると思うので、鬱的な症状を示す年齢が下がることは、あり得るだろうと思う。


 それから、恐らく心因性の鬱の場合、環境が変化し、強いストレスを受けることによって鬱的な症状が出てくることがある。今の子供たちには、ストレスが相当かかっているのではないか。コロナの中で、心の病が増えてきている。SNSの相談等でも、健康状態に対する相談というのが、特には女子に増えている。


 ストレスを発散できない、体を動かせない、密着できない、そしてネットの情報等に囲まれている、外に出ないというようなことが、鬱的な症状につながっているかもしれない。このような環境的な要因が、影響を受けやすい子供たちに、色濃く出つつあるのではないか。


 それから、ハイテンションであったり、それが急に落ち込んだりという気分の変調が非常に激しい子もいる。それが、感情コントロールがうまくできないということとも重なってくるのではないか。


 子供たちが自分の心の動きをどのように捉えていくか。コロナ禍の中で脳や体の発達に影響を与えるスキンシップも少なくなっていった。人間関係がうまく結べず孤立し、スキンシップが取れないというような状況の中で、発達すべきものがうまく発達させることできずに苦しんでいる子もいる。不安、ストレスが強くなっている状況のなかで、心の苦しさの表れ方の一つとして、鬱の低年齢化があるのではないかと思う。


【委員】  さいたま市の人間関係プログラムの改訂のときに、実は抑鬱尺度が取り入れられた。この人間関係を測っていくテストの中に抑鬱尺度が入りここにチェックした方々を教職員がいち早く相談していく体制を取った。


 しかしなかなかチェックが入らず、自殺が起こってしまうということもある。その際、小学校と中学校の連携の在り方が重要ではないかと思う。小中一貫校のような情報がうまく伝わっているところもあれば、小学校の貴重な情報がそのまま中学校に伝わらず、過去に自殺未遂の経験があるという情報がうまく伝わっていないところもあるのではないかと思う。


 そのように考えたとき、GIGAスクール構想を踏まえ、eポートフォリオをもっと連携してうまく使えないか、小中の連携の在り方というものを、自殺防止という点に関して何かもう少し工夫できるところはないかと思う。


【座長】  それでは、次の議題に移らせていただく。前回御議論いただいた内容を踏まえ、生徒指導提要の目次構成改訂(案)に修正を加えたので、資料3につきまして、改めて事務局より説明させていただく。


【事務局】  前回会議でお示しした目次構成(案)を、皆さんの御意見等を踏まえ、少し変更した。


 今回お示ししているのは2部構成であり、第1部に第1章の生徒指導の基礎、第2章の教育課程と生徒指導、第3章の生徒指導の体制として、基礎部分とする。また、個別課題を抱える児童生徒への対応を第2部に下ろしていくという形にした。また、それぞれ必要に応じてリード文を書くという形に整理をした。


 また、第1部の第2章、教育課程と生徒指導について、学習指導要領にある生徒指導の発達の支援など、教育課程と生徒指導の関連性、各科共通の目安になる考え方を提示するという意見もあった。


 キャリア教育について、やはりその位置づけもう少し掘り下げて議論する必要があるのではないかという意見もあった。


 教育相談について、チーム学校ということで、教育相談の定義、生徒指導と教育相談の関係性等を明確にし、教育相談は学校になくてならないものでもあるので、基本の第1部の構成の中に入れ、各個別課題の中にもそれぞれの対応ということで触れていくことが考えられるかと思う。


 また関係機関との連携に関しては、保護者、教育委員会、コミュニティ・スクール等について記載してはどうかという意見があった。


 目別構成案については、第1部、そして個別課題は第2部という形にする。また、これから座長からサンプル原稿で説明していただくと思が、デジタルテキストの強みを活かし、共通するような文言や考え方が各章に出たとしても、すぐに関連する章や節に飛んでいくような形で整理したほうがよろしいのかなと思い、修正させていただいた。


【座長】  次は私のほうから、デジタルテキストのイメージということでお示したいと思う。


 今回は、このようなデジタルテキストの書式やイメージの理解を主目的にしている。したがって、この第1章は未完成で、今後加筆、修正を加えるものなので、あらかじめ御了解いただきたい。また、内容面もある程度できあがってから、後日検討していただければと思う。


 デジタルテキストというと、多くの方がワードファイルをPDFにすることと感じられるかもしれないが、そうではない。


 デジタルテキストの方針としては、基本的な考え方にあったように、読者が現場の先生方であり、また、チーム学校として、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの専門的な方々も読むことが考えられること等、読者層やユーザーを念頭に置いて書くこととする。


 大前提としては、現行の生徒指導提要をベースに、修正が不要な部分、あるいは修正を要する部分、新たに書き加える部分として、再構成し、修正をかけていくというのが方針である。つまりゼロベースでこれを作るわけではない。


 また、カラー版プラスモノクロ版を同時に作成しようと考えている。


 サンプル原稿の左のほうに表示されるしおりを見るとこの章の構造が分かる。書く分量を削減して、なおかつ内容を充実させるためには、このような構造化が重要である。しおりからも例えば、当該箇所に即時ジャンプすることも可能である。


 また、目次から、自分の読みたい章に飛ぶということも可能。各章に関しては、節、項を立てている。


 また、3ページのとおり、本文はなるべく簡潔にして、少し具体的に説明したいところに関しては、下の脚注を使って説明する。


 前回の会議でも、自分が参照したい関連情報に飛べるようにという御要望があった。そこで、例えば3ページの「自己指導能力」で矢印がp.8とあるところを押すとページ8に飛ぶ。それから、また自分が読み始めのところに戻りたいときに、ここをクリックすると、また元のページに戻るという仕様にしている。


 それから、やや赤味がかった文字に関しては、クリックしていただくと、実はインターネットに接続している場合は、皆さんがお使いのブラウザが開いて、その当該箇所のホームページが開くという仕様にしている。


 あとは索引について。目次、索引に関しては、自動的に作れるようにしている。例えば学校運営協議会は6ページにあるが、目次、索引をクリックすると当該箇所に飛べる形にしている。


 学校現場の先生が使うときの最低限度の生徒指導に関する基礎的な知識や、具体的にどういったことができるかという実践的な事例を、各章の中で盛り込んでいければと。


 1章に関しては他の章と異なるが、第2部では各章を、成長を促す生徒指導、予防的な生徒指導、課題解決的な生徒指導等について、統一的な項目で書いていければと。恐らく今の提要よりは何とか文量を少なくできるだろう。あとは図表を入れ込み、図解を要所で入れて、分かりやすくしていければと思う。


 最後に事務局から、多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導に関するワーキンググループに参画いただく委員などについて、資料5に基づいて説明させていただく。


【事務局】  前々回の会議から御相談した、多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導に関するワーキンググループの設置について、御同意いただいたので、このワーキンググループを設置させていただく。ワーキンググループについては、本会議の委員から選ばせていただき、人数を絞った形で御議論させていただければと思う。


 メンバーは、浅野委員、岡田委員、奥村委員、笹森委員、野田委員、藤田委員、座長、またオブザーバーとして、国立教育政策研究所の先生方に御協力をいただく。本会議と並行しながら、このワーキンググループを開催しながら、少し個別重点的に、今度は課題について御議論いただきたい。


【座長】  ただいまの目次構成(案)、第1章のサンプル原稿及びワーキンググループの設置について、フリートーキングを行う。また、冒頭の新井委員、宮寺委員の御説明に関しても、併せて御質問等あれば御発言いただければと。


【委員】  提案として、第2部のタイトルを、「個別の課題を抱える児童生徒への対応」とすると、一部の子供への対応と誤解されるので、「個別の課題に関する児童生徒への対応」として、全ての子供への開発的なものということも入れるのはどうか。


 もう一つ、第3章の生徒指導の体制についても、生徒指導提要の基本的な考え方で強調しているチーム学校を入れて、「チーム学校による生徒指導の体制」としてはどうか。


 3つ目も、第1章の生徒指導の定義と特色の後に、生徒指導と教育相談や、生徒指導とキャリア教育というのを、項立てするかどうかは別として、あるといいと思う。


 最後に特に生徒指導の類型のところは、課題解決、予防、成長促進は、成長促進が一番ベースにあり、予防的なものがあり、さらに課題解決というふうに、3階建てという層であるところを強調して、層別というところを図にする等、強調されると、今回の生徒指導提要の特色がより分かるのではないかと思う。


【委員】  1つは、3章のところの関係機関との連携について。以前学校と家庭、それぞれの役割をはっきりさせないと、連携が不可能だというお話があった。が、全くそのとおりだと思う一方で、家庭の教育力がなくなっているという事実もあり、学校と家庭の役割を明確にしたことで、はざまに落ちてしまう子供たちをどうするのかということを意識しないといけない。


 それから2つ目は、教育相談という言葉が抜けて、生徒指導体制となってしまうと、教育相談の位置づけが下がったと取られてしまう可能性があると思う。そこで、3章は、チーム学校によるとか、教育相談コーディネーターと、というような言葉を入れておかないと、意図したことが実現しなくなってしまうのではないかと思う。


 最後、生徒指導のゴールが分かりづらいのではないか。日本では生徒指導は自己指導能力の育成ということになっているが、例えば海外だったら、キャリア的な発達、学習の発達、パーソナリティー、社会性というような、ゴールが比較的明確である。


 例えば愛着を育てる、あるいは社会性を育てる、コミュニケーション能力を育てる等、何を具体的に育てるのかを明確にすることが必要だと思う。


【座長】  生徒指導提要の作成段階では今の御意見も踏まえて、なおかつある程度各章少人数で書く中で、お互い議論して、盛り込むところは盛り込んでいくということをしたいと思う。


 家庭の機能に関しては、特に家庭の教育力がなく孤立している、あるいは学校に関わらない家庭に関しては、地域の家庭教育支援チーム等、地域の資源を活用して、訪問型、アウトリーチ型の家庭教育支援をやる必要があるかと思う。


【委員】  関係機関という言葉に関して、これは学校を中心に据えて書かれるものなのかどうか。


 この点を確認し、学校の役割、それから教育委員会の役割、相談機関の役割的なのか、学校から見た関係機関の役割なのか整理しておく必要があるのではないか。


【座長】  学校と関係機関等との連携と言った場合には、学校が中心となる。学校を中心にして、関係機関と言ったときには、例えば教育関係であれば教育委員会、教育支援センター、教育センターがある。あるいは福祉関係では児童相談所等。学校と関係機関等との行動連携を想定した関係機関ということで、学校を中心にした関係機関という考え方かと思う。


【委員】  家庭が、サービス業的な形で学校に依存してしまうという構造を感じている。家庭がどんな状況であっても学校と家庭はパートナーであり、対等であると。そのときに、学校のできることは限界があるため、関係機関というものが機能するということを、図解等で明確にしていくことが必要ではないか。学校の意識と家庭の意識を変える必要だと思う。提要にもこの点明確に書いていただきたい。


【委員】  まず、総論として、関係機関と学校との連携という領域と、教科指導、生徒指導、進路指導、キャリア教育という機能の問題は、学校との関係性の中では、それぞれを分けて考えていったほうがよいと思う。


 次に、各論であるが、キャリア教育というのは、現在、進路指導と併置され、主体的な選択・決定を重視する進路指導と、長期的に社会的・職業的自立に向けた資質・能力を育てていく発達的な機能を持つキャリア教育との関係性の中で、進路指導はキャリア教育の中に包含されるというのが学習指導要領の見解である。したがって、10ページの「図 1.1 生徒指導の類型」にあるゴールに到達するイメージの「キャリア達成」という表現より、むしろ、発達的な側面を重視した「キャリア実現」と表現したほうがよいように思われる。


【座長】  時間になったので、フリートーキングはここまでにしたいと思う。


【事務局】  今回の議題の後半については、もう少し議論をするということであれば、次回にも少し移してもとは思うがどうするか。サンプル原稿と目次構成。目次構成は、だんだん皆さんのお話としては、章のさらに下層の部分、中身についての御議論になっていると思うが、もう少し掘り下げるということであれば、次回の時間に余幅を持ってするということもあり得るとは思うが。


【座長】  次回、また委員の先生方にも御相談して、御意見などお知恵を拝借して、目次構成(案)に関しては少しフリートーキングする。


【事務局】  今回お示しした大筋のところは先生方に御同意いただいた。さらに細かい部分について少し掘り下げて御議論することが必要かなと思うので、次回そういう前提で準備させていただく。


【座長】  以上をもって第3回の会議を閉会する。第4回の開催については、追って事務局より御連絡をお願いしたい。

―― 了 ――

初等中等教育局児童生徒課

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