1.日時
令和3年3月26日(金曜日)13時30分~15時30分
2.場所
Web会議
3.議題
- コロナ禍における児童生徒の自殺等に関するヒアリング
- その他
4.出席者
委員
新井委員,内野委員,川井委員,窪田主査,阪中委員,坪井委員
ヒアリング協力者
千葉大学子どものこころの発達教育研究センター長
大阪市教育委員会事務局学校運営支援センター教育ICT担当
大阪市教育委員会事務局指導部教育活動支援担当指導主事
文部科学省
江口児童生徒課長,鈴木生徒指導室長,伊藤専門官
5.議事要旨
【主査】 早速、議事に入るが、今回は、ICTを活用して効果的な自殺対策等の取組を行っている研究機関及び自治体からヒアリングを行うこととした。まず、千葉大学から20分程度、大阪市教育委員会事務局には10分程度で説明していただき、それぞれの説明に対して10分程度の質疑応答を行い、その後、委員によるフリートーキングとしたい。
まず、千葉大学から御説明をお願いしたい。
【千葉大学】 私からは、子どもみんなプロジェクトのこころの発達に関する研究成果とGIGAスクール構想への展開について、資料に沿って説明させていただきたい。
子どものこころの研究者と教育者の連携コンソーシアムを子どもみんなプロジェクトと呼んでいる。脳科学・精神医学・心理学等と学校教育の連携の在り方を模索するため、2015年度から5年間にわたり、文部科学省の委託事業として、大阪大学を中心に10大学のコンソーシアムを組んでいる。2020年度からは、千葉大学で事務局を引き継いでいるところ。本日は、特に4つの大学からの発表内容を説明させていただく。いずれの大学も、教育委員会とも積極的に連携を図っている。
最初に、弘前大学の中村先生、足立先生からの御報告を紹介する。これは、公立学校の小中学生1万1,370人を対象に行っている「心のサポートアンケート」という取組。特に今年度は、2020年7月に、コロナ禍におけるうつに関する調査を行っている。その結果は、タイトルにあるように、中等以上のうつが1割を超えており、支援につながっていた割合が2割未満だったとのこと。
詳しく見ていくと、うつの質問紙調査、尺度があり、PHQ9-Aという9個の質問をするものだが、これには6,364人の回答が集まった。そのうち、赤字で示している中等症のうつが7.5%、中等から重症のうつが3.0%、重症うつが0.85%となっており、54人の重症のうつの子どものうち、10人が支援につながっていたが、44人はカウンセラーや医療につながっていなかったという結果が出ている。
また、9番目の質問が、「死んだほうがいい、または自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある」という質問になるが、「ほとんど毎日」そういったことがあると答えた子どもが129人(2.0%)、そのうち、支援につながっていた子どもが16人のみとなっており、113人には支援が届いていなかった。
資料に示しているように、弘前大学では「心のサポートアンケート」についての結果をクラスの先生にフィードバックしている。「抑うつ・攻撃性・友人関係ストレス・学校ストレス・家庭ストレス」に関する項目と、例えば「生きていても仕方がない」、「他の子からいじめられる」といった重要項目について、それぞれ回答する形式になっている。「心の元気さ」が「抑うつ」、「心のおだやかさ」が「攻撃性」に関連しているといった形で、継続的に先生にフィードバックされることとなる。
弘前大学では、2015年から取組を実施しており、2019年までの結果の変化を見ていただきたい。小学1年生から中学3年生までを対象に、青色の棒グラフが2015年、灰色の棒グラフが2019年を表しているところ、小1、小2はあまり変化がないものの、小3から中3までを見てみると、詳しい仕組みは未解明だが、フィードバックするだけでも抑うつの点数が下がるという結果が出ている。こうした心の抑うつ傾向などを調査し、クラスの先生や子どもに返しているのだが、フィードバックするということに1つの意味があると考えている。
次に、子どもの発達科学研究所、大阪大学の片山先生、和久田先生から御提供いただいた研究内容について説明する。ここでは、うつ・不安についてのPHQ4、4つの項目に回答することとされている。上の2項目がうつの項目、下の2項目が不安の項目となるが、これらを聞くことを「こころの健康観察」と位置づけ、今年度に実施された。A市の142の小中学校に在籍する5万6,100人の子どもたちが参加し、にっこり・こころ・りすと、NiCoLiという名称で取り組んでいただいた。先ほど取組を紹介した弘前大学では、これまでのデータの平均値が1.55ぐらいとのこと。今回、A市では1.77となったため、今年度はコロナ禍で少し高くなったのか、といった考察が進められている。
そして、今年度の調査の後に、校内フォローアップ対象児を見つけるということになる。「うつ・不安」は「こころの元気さ」に置き換えるということで、「こころの元気さ」が1つや2つと少ない、うつ・不安傾向が強い子どもを特にピックアップする。さらに、学校生活、友人関係、家庭生活、ゲームなどの使用において困難さを感じているかという観点で、5万6,100人のうち、5つの要因のうち2つ以上について要支援の問題がある子どもは、3,057人、805人、179人、22人で合計4,063人、全体の7.2%ぐらいの子どもがフォローアップの対象となった。
実際にこの子どもたちの話を聞くと、心のつらさを聞き取ることができている。
子どもみんなプロジェクトにおいては、不登校を1つのテーマとしているが、不登校については、文部科学省のデータからも、本人に関わる要因として不安の傾向があることが注目されている。不安は誰もが持つ生存に重要な感情だが、一方では、その不安が大きすぎると、ほかの子の前で緊張して、教室に入るのが不安だとか、学校へ行くのが恐怖といった形で、不登校の原因の1つとなっている。この「不安」について、私たち精神科医は、不安症といった診断名をつけている。
資料では、各年齢層に好発する不安症群という、不安に関する病気についての表を示している。こちらの資料の5歳、10歳、15歳の辺りを見ていただくと、未就学児では分離不安症や場面緘黙、小学生になるといろいろな恐怖症が出てきて、思春期に入ると、人が怖くなる、対人恐怖症、社交不安症が出てくる。こういった子どもの不安の問題に対処しなければ、不登校、ひきこもり、うつ病などにつながるということから、私たちは子どもの不安の測定を行っている。
千葉大学では、Spence Children’s Anxiety Scale(略称:SCAS)という尺度を使っているが、この尺度を使うと、子どもの不安の問題を6つの領域で測定でき、例えば赤でピックアップした質問、「クラスのみんなの前で、話をするのがこわい」という項目に、「ぜんぜんない」や「いつもそうだ」などと回答してもらうことになる。全部で38項目あり、最大114点となるが、小学校高学年では平均23.5点ということがこれまでの研究で分かっている。千葉大学では、最初は紙媒体の質問紙を用いていたが、今は、「こころのeラーニング」とあるように、子どもたちにパソコン室で入力してもらうこととしている。2019年度は、年に2回から3回、約3,000名にこの不安の尺度に答えてもらい、今年度は、コロナ禍ではあったが、約1,000名の回答を得ている。
こういったうつ・不安という問題は、資料に黄色で示した通り、大人でも未治療率が75%と、4人に3人は問題があっても治療を受けていない状態。子どもでも同じ状況で、有病率が4%とあるが、うつ病・不安症で未治療率が76%という状況。先ほどの弘前大学の調査でも、うつ病の子どもが支援につながっていないという状況があったと思うが、英国でも同じような状況ということになる。
そこで、イギリスでも、そして、日本でもその解決策として注目されているのが認知行動療法である。認知行動療法とは、出来事(ストレス)に対して、不安やうつのような強い感情を引き起こす認知(考え方)や行動の偏りによる悪循環のパターンを見つけ、よいバランスを取り戻すためにお話をする、語り合う(talk)セラピー、精神療法、心理療法を指す。うつ病・不安症の場合は、毎週1回50分、16回程度来ていただき、不眠症の場合は、4、5回程度来ていただくことになる。
この認知行動療法は、非常に効果があることが知られている。今のようなうつ病・不安症のような精神疾患に対して、認知行動療法単独では、およそ2人に1人が回復するというデータがある。うつ病では50%だが、パニック症とか外傷後ストレス障害(PTSD)、社交不安症は約75%のため、4人に3人は回復できると。うつ病に対する認知行動療法は、薬物療法と同等の効果があり、不安症に対する認知行動療法は、薬物療法より優れているということを示すエビデンスがある。
こういった中で、イギリスでは、心理療法アクセス改善政策(略称:IAPT)という取組を行われている。この取組は2008年から開始され、最初は成人のうつ・不安に対する認知行動療法を提供する国家政策プロジェクトとして始まった。セラピストを地域の診療所兼保健所、プライマリケア・トラストというところに配置するとともに、スーパーバイザーを大学に配置して、非常にうまくいっているので、2023年までに国民の190万人にはこの認知行動療法を提供しようという目標を掲げている。
2011年からは、児童青年期のうつ・不安に対しても実施されるようになり、2015年からは、それが児童青年期精神保健サービスという名前に変更して取り組まれており、2018年では一般医療を受けた38万人の児童青年期の子どもの36.1%が精神疾患を持っているということで、医療としてもフォローに力を入れているところ。
一方で、治療だけでなく予防に力を入れるという観点からも、認知行動療法は有効。予防に関する考え方として、3つのテーマがある。1つ目は、Indicated、症状のある人を対象に予防、早期介入をしようというテーマ。2つ目は、Selective、ハイリスク者を対象に予防しようというテーマ。先ほど紹介した、弘前大学や大阪大学の取組のように、ハイリスク者をフォローアップしようというもの。そして3つ目は、Universal、全ての人を対象に予防しよう、メンタルヘルスを増進しようというテーマ。
千葉大学では、認知行動療法に基づく不安のユニバーサル予防教育プログラムに取り組んでいる。「勇者の旅」と名付け、学校の授業を通して認知行動療法に基づく不安対処の理論と方法を学んでいただき、適切な不安対処スキルを子どもに身につけていただくというもの。主な対象は小学校高学年、5・6年生であり、ワークブックに沿って、45分×全10回のプログラムを、週1回から月1回の頻度で学校において実施してもらうことを想定。指導者の教員には、多くの場合、夏休みに6時間の講習会に集まっていただき、その後に2学期、3学期で10回のプログラムを実施いただくという流れ。
不安が有意に低減するという効果は再現性が高く、何回実施してもこのような効果を示すことができている。資料にある通り、赤い線が「勇者の旅」を実施していない群を示しており、青い線は「勇者の旅」を実施した群。不安のスコアについて、マイナス9点ぐらいの差がつくような数字が出ている。2013年に始めたときは13人と16人、2014年は30人と40人となっており、効果が出ることが確認できたので、学校の先生に実践していただいたところ、2017年には1,583人と1,095人、2018年には904人と439人という結果になった。
資料の図は、ある31人のクラスにおいて、当初は高不安の子どもが3人いたところ、「勇者の旅」を実践した後は、1人に減少したことを示している。養護教諭の先生に実践していただいている様子を写真で示しているが、出席番号順に並べて、縦軸が不安の点数になっており、44点を超える不安の高い子どもが3人いた。ただ、この茶色の子どもは、介入後も1人高いままだが、緑色の子ども2人は、「勇者の旅」を10回学んだ結果、普通の子どもぐらいの不安の程度になると。この残った1人の子どもが、先ほどの話で言うところのハイリスクの子どもなので、注意して見ていく必要があるかと思う。
今年度は、コロナ禍のため、教員にはオンラインの研究会に集まっていただき、その後、それぞれの小学校で実施していただいた。今後はオンデマンドでの研修や、「勇者の旅」を子どもにeラーニングコンテンツとして提供することも構想している。
続いて、西宮市教育委員会、武庫川女子大学の河合先生の資料に沿って説明する。「こころんサーモ」というチェックリストを用いた、オンラインでの子どもの状態把握システムの導入が進められている。提示している資料には、「仮」となっているが、現在では、これがそのまま正式名称となっている。市長、教育委員会、校長会、研究開発協力校などの理解の下、導入が進められている。妥当性確認の外的基準として、級友と教員が把握した子どもの行動を確認している。
こちらの資料では、子どもの心理的状態を12の観点から測定し、その結果をオンラインで収集するとともに、教員に対して即時のフィードバックを行う仕組みが示されている。これらの観点は、いじめや不登校など学校不適応の把握と支援、生徒理解に活用されている。従来の様々なテストでは、測定からフィードバックまで時間が必要であったのに対し、このシステムは、その時点での状況を体温計のように測定し、頻回に状態把握ができる点、それらの結果をサーバーに格納し、経時的比較が可能である点に特徴がある。
理論的な背景としては、システムアプローチに基づくレジリエンスモデルを取っている。これらのシステムは、下の図にある通り、教育ネットによって教育委員会が管理している。数回の測定で個人の平熱の範囲が把握されることになる。子どもたちには、その時点で達成レベルが高いところを伝え、エンカレッジすることになっている。来年度より、西宮市立の義務教育学校を第1号として、順次、市内全小中学校への実装作業及び教員の研修が開始される。項目の妥当性・信頼性に関する研究も進められているところ。
今の武庫川女子大学での河合先生の取組と同様ではあるが、千葉大学でも、4月から、ウェブ上での子どものストレスチェックとオンライン教育相談を実践したいと考えている。資料にもある通り、大人を対象とした職場でのストレスチェックと同じように、学校の教育相談担当教諭、養護教諭あるいは学校医が、子どもたちの同意を得て、ウェブ上でストレスチェックを行い、高ストレスの有無、相談の必要性の有無をフィードバックするというもの。実施に当たっては、オンラインでの教育相談も活用できると考えている。私たちとしては、認知行動療法のオンラインでの提供についても、積極的に取り組んでいるところ。今年度は、コロナ禍ということもあり、オンラインで認知行動療法を行う例が増えている。同様に、ウェブ上でのストレスチェックを進めていきたいと考えている。
資料に示しているのがコンセプトの案となる。職場でのストレスチェックと同じように、メンタル不調の一次予防の強化を目的として、ストレスへの気づきを促したり、学校集団にフィードバックを行って環境改善につなげたりすることなどを考えている。あるいは、あわせて学校医の業務拡大なども検討していきたいと考えている。
ストレスチェック自体は、パブリックヘルスリサーチセンター版ストレスインベントリー(PSI)というものを検討している。日本認知・行動療法学会では、子どものストレスチェックと認知行動療法の活用について検討中だが、著者と出版社の御協力により、このPSIは、公益的には無償で使用可能ということで提供していただいている。PSIは、ほぼ大人のストレスチェックと同じだが、ストレス反応、ストレッサー、ソーシャルサポートという3つの状態をチェックできるようになっている。
先日、子どものストレスチェックの普及用パンフレットが完成し、ウェブからもダウンロードできるようにしている。本日の資料にも添付しているため、参照いただきたい。
このように、4月から千葉大学では、クラウドデータベース、国内での情報セキュリティーの高いものに、こういったデータを収集していく予定。
千葉大学では、このような情報収集とともに、サポートできる人材養成、認知行動療法を活用した人材養成についても、文部科学省の高度医療人材養成プログラムを活用し、推進しているところ。
最後に、認知行動療法を活用して、発達段階に合わせ、反復した心の健康づくりを行いたいと考えている。
【委員】 弘前大学の資料の2枚目、全体の3ページ目について、小5から中3までで中等症以上のうつが10%を超えており、かなり割合が高くなっている。その中で希死念慮を持っている子どもが129人、2.0%となっているが、この希死念慮を持っている子どもとうつとの関係はどうなっているのか。
【千葉大学】 9個の質問のうち、9番目の質問が希死念慮に関する質問となる。1つの質問につき0から3点で点数をつけ、9個の質問の満点が27点となるが、点数が高いほど重症と判定されるので、この希死念慮に関する質問についても、3点がつけば高いということになる。私からは、恐らく希死念慮とうつとの間には関連があると思うとまでしか言えないが、どれくらい関連があるかについては、弘前大学に御確認いただければと思う。
【委員】 千葉大学は、子どもの不安の把握に重点を置いていると理解している。他方で、弘前大学はうつの把握に重点を置いている。自殺予防という観点で考えたときに、子どもの場合でもうつ状態が自殺の背景要因として考えられる。うつというより不安に焦点を当てて、自殺に限らず学校に対する不適応といった観点で見ているのだと思うが、不安とうつの関係についてはどのように考えているのか。子どもの危険な状況を把握していくときに、私はうつに着眼することが多いのだが、不安との関連性をどのように考えているか聞きたい。
【千葉大学】 うつと不安はやはり切っても切り離せない関係と捉えている。先ほどの英国での取組も、うつ・不安に対して認知行動療法を提供するという考え方に立っている。実際、不安の問題を抱えている子どもの多くにうつ症状もあったり、逆に、うつ症状を抱えている子どもの多くが不安を抱えていたりもする。
ただ、弘前大学は、教育委員会との連携の中で、うつについての質問紙を使ったのだと思う。私たちがストレスチェックという言葉を用いているのは、希死念慮についての質問を聞くのは非常にハードルが高いため、もちろんためらってはいけないという意見もあるが、直接的に希死念慮の問題を聞くよりは、大人も実践しているストレスチェックという言葉を使うことで普及しやすいようにしたという理由もある。
精神科医としては、うつと不安をあまり区別せずに、スクリーニングはどちらから行くにしても両方の問題があるので、うつと不安の両方に対して、スクリーニングを行い、認知行動療法を提供したいという考え方に立っている。
【委員】 弘前大学も含め、子どもや教員にフィードバックを行うにとどめているが、結果として抑うつ傾向が下がっている。これは、フィードバックを行うこと自体が子どもへ好影響を与えているのか、先生が近くで子どもたちを見るときに好影響を及ぼすのか、あるいは先生の子どもへの関わり方が変化する結果なのか。千葉大学の方は、今後は子どもをサポートするメンバーを養成していく方向だと思うが、フィードバックが子どもや先生にどのような効果をもたらしているのか。
【千葉大学】 担任の先生に自分のクラスの子どもの抑うつの程度や攻撃性、不安の程度をフィードバックすることで、外から見ていてもうつ状態であったり悩んでいたりすることが分かりやすい子どもと、そのことが分かりづらい子どもが明らかになる。そのパターンを毎年先生にフィードバックしていくうち、徐々に先生が潜在的に悩んでいる子どもを把握できるようになってくるのではないかというのが私の推測。
また、子ども本人にもフィードバックしているので、年に1回、自分の心の健康度合いを見ることで、心の健康づくりに気をつけようという意識が高まるのではないか。先ほどストレスへの気づきという言葉があったが、そういった意味で、市全体、教育委員会の下、学校全体でメンタルヘルスの増進に対する意識が非常に高まっているのではないかと考えている。
【委員】 弘前大学の取組において、このアンケートを実施していることを保護者は知っているのか。
【千葉大学】 もちろん保護者の同意も得た上で実施していると思う。今回の資料では、子どもへのフィードバックシートを示せなかったが、子ども用のフィードバックシートを本人が受け取り、保護者にも見せるという形でフィードバックがなされていると理解している。
【委員】 保護者は質問項目も把握しているのか。希死念慮について聞いており、「死にたいと思ったことがある」に丸がつけられているというような、個別の項目についてもフィードバックされているのか。それとも、全体的なフィードバックのみか。
【千葉大学】 今年度7月に実施されたうつの尺度に加え、2019年度までのうつの尺度についても、希死念慮よりは抑えた表現ではあるが、「生きていても仕方がない」という質問項目がある。個別の項目についてではなく、全体的なフィードバックのみで、「こころの元気さ」(抑うつ)、「こころの穏やかさ」(攻撃性)という全体的な形で、本人を通じて、保護者にフィードバックしている。
【主査】 教職員が、希死念慮のある子どもたちがクラスにいることを知った場合に、動揺してしまう恐れもあると思うが、前提として教員研修をしっかり行った上でアンケートを行うという理解でよいのか。
【千葉大学】 2015年度から取り組まれており、2020年度のコロナ禍においても、5年間の取組を通してよい結果が出ているので、このような内容の質問紙でも、教育委員会や学校に受けていただけたのだと理解している。やはりこのような質問は、学校としては受けづらいと思うので。弘前大学の例は、長年の教育委員会と大学との連携の結果だと思っている。実際、未就学児の発達の問題も、弘前大学でフォローアップしているので、そういう意味では市と大学の関係が非常にうまくいっていると理解している。
【委員】 2学期と3学期で10回授業を行ったとのことだが、学校ではどのような授業の時間を使って実施したのか。
それから、このような取組は全国的にどのレベルまで広がっているのかという実情を教えていただきたい。
【千葉大学】 確かに、現場の先生からは10時間、10コマの実施は非常に厳しいという声をいただくことも多いが、現場では、例えば総合や学活、保健体育、道徳の時間など、いろいろな時間を集めて、捻出する工夫を行っていると聞いている。不安なときに出る体の反応については、理科の授業の一環で教えるなど、様々な工夫を行っていただいているとのこと。
また、2つ目の質問については、もちろん千葉県内は非常に多く取り組んでいただいているのと、あとは、鳥取県でも熱心に実践していただいた。それ以外にも、九州であれば福岡県の八女市、あるいは京都府や、埼玉県吉川市など、「勇者の旅」のコンセプトに共感していただいた教育委員会では、取り組んでいただいているところ。
【主査】 続いて、大阪市教育委員会事務局に御説明をお願いしたい。
【大阪市教育委員会】 文部科学省の「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」、総務省の「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」を活用し、大阪市では、平成29年から令和元年まで、小学校3校、中学校2校、児童生徒1,000名を対象にこの事業を実施した。この実証の成果を受けて、令和2年度より大阪市単費の予算でスタートしたのが、「スマートスクール・次世代学校支援事業」である。本日は、主にダッシュボードと「心の天気」について報告したい。
ダッシュボードのうち、資料に示しているのが児童生徒ボード。本事業では、令和2年9月から、小中学校420校、16万5,000人の児童生徒のデータを各学校に提供している。校長は校長室から、教員は職員室の校務支援パソコンから各クラスの子どもたちのデータにアクセスできる。小学校、中学校とも、先生が自校の全児童生徒のデータを見ることができる仕組みになっている。
児童生徒ボードは、児童生徒の状況を一覧化して見ることができるのだが、青色が校務系のデータ、赤色が学習系のデータとなっている。左から、家庭の様子、児童生徒基本情報、共有配慮事項。中ほどは、生活の様子、右側は学習の様子を表示している。青色の校務系データは、教員や養護教諭が日常的に入力する出欠情報や保健室利用記録と連動しているため、新たに担任の先生が入力するという作業は生じない。学習データなど様々な情報を集約化することで、教員が子どもたちを多面的に理解し、個に応じた指導へつなげることに活用していただいている。
また、児童生徒ボードに加え、学級の状況を一覧化して見ることができる、学級ボードも提供している。学級ボードは、タイムライン、生活の様子、学習の様子で構成されている。タイムラインでは、各情報における新着情報や各学校があらかじめ設定したしきい値に基づき、アラート情報を出力することが可能となっている。アラート情報をきっかけに子どもたちに声かけをするなど、課題の早期発見、早期対応につなげることが可能。学校では、出勤後、校長や担任の先生はまずこの学級ボードを確認するところからスタートすることになる。
児童生徒と学級ボードのアラート表示は、学校ごとにしきい値の設定を可能としている。出欠情報、心の天気、保健室利用記録などにおいて、例えば、心の天気の入力状況について、50日間のうち「晴れ」が50%以下であること、3日続けて学校を休んでいること、あるいは保健室を利用していることをしきい値として設定しているとアラートが機能し、赤い文字で名前が出てくる。このしきい値をもとに、学級ボード、児童生徒ボードにアラートが出力されるので、教員の気づきを得て、児童生徒への声かけあるいは個別指導に活用していただくことを想定している。アラートが出ている名前をクリックすると、先ほどの児童生徒ボードに画面が移るという形になっている。
続いて、児童生徒の心の天気の入力画面について説明する。これは令和2年10月から小中学校全校に導入した。GIGAスクールの1人1台端末からアプリをクリックすると、この画面に切り替わる。子どもたちはその日の自分の気持ちに近い天気を押すことになる。心の天気に判断基準は設けていない。このような気持ちは雨にあたるといった基準は、設定していないため、子どもたちが自由に自分の心の様子を入れることができる。その中で読み取れる心の変容を教員がどのように気づいていくのか、という仕組みになっている。
資料の右側がクラスの天気の一覧表となっており、青が多いクラスは曇りが多いクラスで、雨が続いている児童生徒などが分かるようになっている。教員は、児童生徒の様子や日々の変化を見取り、声かけのきっかけとして活用していただいている。資料の左下は、1台のタブレットを共有して入力する画面であり、ほかの児童生徒が何を入力しているかは見ることができないようになっている。
最後に、個別の教育支援計画・個別の指導計画について説明する。児童生徒一人一人について、入力枠を設定している。これも児童生徒ボードから画面遷移することとなる。支援が必要な児童生徒、日本語指導が必要な児童生徒及び不登校の児童生徒について、同一の入力枠において、それぞれ必要事項への入力と管理を行う。同一内容を繰り返し入力する必要がなくなり、次年度以降は入力したデータを活用できるので、校務の効率化が図られる。日常的に情報共有することや、会議時には紙資料を準備することなく、画面で確認しながら会議を進めることができる。全ての教員が、支援が必要な児童生徒の支援計画を共有し、個に応じた指導につなげることができる。
本事業については、教育再生実行会議初等中等教育ワーキング・グループでも取り上げられ、学習履歴(スタディ・ログ)等を活用した個別最適な学びの充実の実践例として紹介いただいている。学習履歴(スタディ・ログ)はもちろん、生活履歴(ライフログ)、指導履歴(アシスト・ログ)についても、エビデンスデータとして、各担任、校長が活用できると考えている。
続いて、データを共有する教員の1日を紹介する。先ほど述べた3年間の実証を通して、各学校で取り組んだ内容を、教員の1日としてまとめている。
まず、シート右上にデータ入力、データ確認、データからの指導として活用画面を表示している。出勤後の教員は、学級ボードの新着情報やアラート表示の確認を通して、学級の様子や、声かけが必要な子どもたちの確認を行う。
次に、教室の朝の会の様子。学校は、校務支援システムの掲示板機能で、職員朝礼を短縮あるいは廃止している。空いた時間を活用して教員は教室に向かい、朝の会では、子どもたちは心の天気を晴れ・曇り・雨・雷から選択し、先生のかたわらでちょっとした話をしながら登録をしていく。毎朝一人一人の顔を見ながら会話する、大事な時間となっている。子どもたちの方から先生に話しかけてくれるようになり、ちょっとした変化も見逃さないようになってきた。担任の先生が、毎朝、クラスの児童生徒全員と話す機会ができた。特に中学校の先生は、教科担任制であり、朝子どもたちの顔を見ると、そのまま最後までクラスに行かないという場合もあるので、子どもたちと会話する貴重な機会になっている。
次の資料も、教室の朝の会の様子。教室から出欠を入力することができる。朝の会終了時には、全児童生徒の出欠情報と健康観察の結果を、校長や養護教諭が確認できる。従来の紙ベースでは、出欠情報を保健室に持っていっていたことと比べると、さま変わりしている。インフルエンザによる学級休業の対応も、迅速にできるようになる。
続いて、授業前の様子。教科担任制の中学校や、小学校の習熟、専科の先生は、授業前にダッシュボードで子どもたちの様子を確認できる。アラート機能のおかげで、学級や子どもたちの様子がタイムリーに確認できる。簡単に学級の状況を確認するだけでも、授業の充実につながっていく。
その次が教員指導の様子。学級ボードにおける学級の状況や、児童生徒ボードにおける一人一人の子どもたちの状況を、若手教員とベテラン教員が共に確認・分析する。子どもの出欠情報、保健室利用から子どもへの声かけや保護者との対応なども相談する。蓄積されたデータが可視化されることで、ベテラン教員の経験や知見を活用し、詳細な状況把握や見取りを深めることができる。これにより、事案の早期発見や適切な対処についての指導法の伝承が可能となる。また、校長は、これらのデータを教員指導・支援に活用している。
次に、児童生徒理解について。児童生徒理解研修会や特別支援研修会、生活指導部会など、多面的に子どもたちを理解し、指導の方向性を決める会議が増えてきている。児童生徒ボードは顔写真もついており、必要な情報が集約されている。これにより、一人一人の子どもを理解し、見取りを充実させることに役立っている。児童生徒ボードには、先輩教員の指導記録も記載されているため、同様の事案が発生したときに参考にするなど、若い先生も含め、チーム学校としてきめ細かな指導が可能となっている。
次に、保健室利用の様子。不調の訴えとなる原因がつかめない、全身倦怠を理由とした保健室利用が多くある。授業を離脱しがちな子どもたちの状況や対応について、校長、担任、養護教諭で共有し、指導につなげることができている。これまで、養護日誌を通じた情報共有においては、養護教諭と管理職との間での情報伝達にとどまっていたが、保健室利用情報を各担任が見られることで、保健室と担任をつなぐことができるようになる。
続いて、地域連携について。学校には様々な関係者が来訪するため、都度、説明や迅速な対応、連携が必要となる。区役所の関係者に、学級ボードや児童生徒ボードを通して、学校の状況を報告したところ、区役所からは、学校版のカルテのようで、様々な情報が詰まっていて分かりやすいという評価をいただいた。また、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーにも、この児童生徒ボードで情報共有を行っている。チーム学校を実現するツールとして活用していただいているところ。
次の資料は、引継ぎの様子。担任の引継ぎにおいても、学級ボードと児童生徒ボードを用いて、クラスや子どもたちの状況を説明している。詳細に子どもたち一人一人のことを把握でき、顔写真もあるため、早く子どもたちを覚えられる。児童生徒の引継ぎデータとしても大変有効であり、校長の引継ぎにも活用いただいている。
最後に、保護者説明について。懇談会では、学年・学期当初からの子どもの成長が語られる。従来は、懇談会前の時期の限られた情報が、懇談会で共有される情報の全てになることも多かったが、システム導入後は、学期当初からの子どもの変化や成長について語ることができるようになった。例えば、委員会活動の担当教員など、担任以外の先生も入力できるので、担任以外の様々な先生からの情報が集まり、根拠のある説明ができている。保護者からは、担任以外の先生からもきめ細かく見守ってもらえているという安心の声があがっている。
【委員】 このようなことが実現可能なのかと驚いたが、集約された子どもたちの情報は、かつての学校の原簿のような形で保存されていき、後日子どもからの開示請求に対しても提供するような情報になるのか。
それから、例えば虐待や非行といった問題が出てきたときに、地域の中でこうした情報を警察や児童相談所に共有することも想定しているのか。
【大阪市教育委員会】 この子どもたちのデータの件については、個人情報保護審議会にも諮っており、その上で、この情報は専用のクラウド上に整備し、大阪市だけがアクセスできる環境下で取り扱うこととしている。それから、保護者から情報公開請求があれば、公開対象になると考えている。まだ事業がスタートして5か月ほどだが、今のところはまだ公開請求は出ていない。
また、学校以外の関係機関への情報提供については、今のところは、まだそこまでの展開はできていない。
【委員】 教育の面では非常に効果的なデータだと思う半面、家庭の様子から精神状況まで全て書かれており、情報の共有には慎重にならざるを得ないと思うので、これからどのように活用するか慎重に検討しなければいけないと思った。
【委員】 厳重に取り扱わなければならない個人情報のため、恐らく非常に堅牢なシステムを使っているとは思うが、場合によっては、人為的なミス等で情報漏えいが起こってしまうリスクもあると思う。
それから、今までの紙ベースと違って、データの蓄積こそが大きな利点であると同時に、教員の書き込み部分がかなり主観的になってしまうかもしれない。先ほど、例えば引継ぎのときに非常に有効なツールになるとの話があり、私もそう思うが、1人の教員が捉えた主観的な情報が引き継がれていくという危険性もないわけではない。もちろん今までも、紙ベースや口頭ベースで引継ぎが行われる中で同様の懸念はあったと思うが、教員がこのツールを使うに当たって、どのような姿勢が求められるのか。例えばICTを活用する力など、どのような力が求められると大阪市では考えていて、それをどのようにつけていったのかを聞きたい。
また、特に小学校は、学級王国ではなくなったと言いながらも、生徒指導上のいろいろな状況を見ていると、学級の中でまだ抱え込みが起こってしまっている。そういう意味では、学校全体で子どもの情報を共有することで、学校全校で特定の児童生徒の問題に対処していくことが実現しやすくなるのではないかと思うが、実際にこうした効果が確認されたかを聞きたい。
【大阪市教育委員会】 教員の書き込みについてだが、この点については指導部からも文書を発出し、事実のみを記入するよう徹底している。その上で、情報公開を受けたとしても、保護者も知り得るような事実だけが記載されているという取扱いになるようにしている。
2点目に、子どもの情報を学校全体で共有するという点については、最初にこの事業をスタートしたときに、特に小学校の校長先生から「まさにこういうものを待っていた」という反応があった。というのも、大阪市の教員も、採用後10年未満の先生が5割を超える比率で、先ほどの校長先生の言葉を借りると、肌感覚で子どものことをつかめる先生が少なくなってきたと。ベテランの管理職が若い先生に肌感覚を伝承していかなければならず、非常に苦労しているとのこと。
昔であれば、登校してきたときの子どもの様子や、学級の健康観察で、昨日は風呂に入っていないな、昨日と同じ服を着ているなといったことから、子どもをつぶさに見てきたが、徐々にこうしたことが難しくなってきた。その意味では、1つの画面から、例えば保健室の利用状況や欠席状況、遅刻の状況、子どもが入力する心の天気などをトータルで見ることで、どのように子どもに関わっていけばいいのかを共有できることは有効。それから、今までは、学級崩壊直前のどうしようもなくなった状態で、管理職へ相談に来る先生もいたが、これからはもうこれを見るだけで校長の方から、クラスの状況等について声をかけることができる。校長が学級の状況を承知しているということも、担任の先生はそれぞれ分かっているので、早めの対応ができるようになる。
実際、中学校の事例では、家庭的に非常に問題がある児童生徒が、心の天気の入力状況から察知でき、事が大きくなる前に未然に防ぐことができたという報告を受けている。
【委員】 発表いただいたシステムを使って、子どもの状況を把握するのはとても有効だと思った。その上で、最終的にはスクールカウンセラーや教員等による、具体的な支援につなげていくことが大事なのではないかと思ったが、例えばスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーについては、大阪市ではどのように配置や支援を行っているのか教えていただきたい。
【大阪市教育委員会】 大阪市では、スクールカウンセラーは、各中学校に週1日6時間配置となっている。年間で決められた回数、小学校にも行くこととしている。小学校に配置がない学校については、中学校のスクールカウンセラーに相談できるような仕組みになっている。
スクールソーシャルワーカーについては、各24行政区に、学校数に合わせた人員・勤務時間で配置している。スクールソーシャルワーカーが小中学校を巡回しているという状況。
【委員】 中学校には週1回で6時間の配置ということか。
【大阪市教育委員会】 週1回の配置となる。スクールカウンセラーの事業担当ではないので、詳しくは分からないが、週に1日行き、そこで6時間勤務するという配置になっていると思う。中学校については、全中学校に配置している。
【委員】 担当部署ではないため回答が難しいかもしれないが、相談の状況は分かるか。週1回6時間の配置で、子どもの心の健康の状況を把握し、相談対応ができているのかを聞きたい。
【大阪市教育委員会】 学校によって状況が異なるとは思うが、詳しい相談の状況までは分からない。
【主査】 続いて、コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状及び今後の方向性について、委員間で意見交換を行う時間としたい。
【委員】 コロナ禍の中で、私の大学も授業が全てオンラインになっていった。オンラインで可能なことがある程度見えてきて、もちろん限界もあると分かった。本日の発表を聞いて、恐らくこのような動きはもっと加速されるだろうと。子どもたちの状況をつかむという点では、どこまでデータの幅を広げ、深めていくのかという議論はあるが、データ化により今まで見えなかったものを見ることができるという効果がある以上、活用していくべきだと思う。それと同時に、子どもをデータで切片化して見ていくだけでなく、やはり子どもの全体像を見ていくという教員の力が求められる。その両方をうまく進めていくことが必要ではないか。
大阪市の心の天気という取組の紹介があったが、この取組では、心の天気の入力に当たって、子どもたちと先生とのやり取りがある。子どもたちそれぞれの端末から入力された情報を先生が見るのではなく、入力時に子どもの表情を見ながら、先生が一言二言でも言葉を交わす時間がある。時間はかかるかもしれないが、このやり取りに大きな意味があるのかなと。
だからこそ、こうしたツールを活用していくに当たっても、その中で、実際に顔を見たり、言葉を交わしたりすることを大事にしていく必要があると強く感じた。単純にツールを使えばよいということにならないよう気をつけなければいけないと思った。
【主査】 フィードバックを通じて自分の心の状態に気づくことが効果的だと考えると、やはり心の天気やストレスチェックの結果をどのように捉えればいいのかという教育がきちんと並行して行われないと難しいのだろうと思う。
うつなどの証拠を見たときに、過剰に不安になったり、関わり過ぎたりするのではなく、適切にそれを受け止めて関わるスキルが先生にないと、不適切な関わり方をしてしまう危険もある。子どもたちもフィードバックが来たときに、悪い結果を見てより傷つくということになっては意味がないので、教育・研修とこうしたツールがセットで提供される必要があると思った。
【委員】 今までのこの協力者会議での方向性が、SOSの発信の仕方とか、子どもの相談ツールの開発という方向に行っている感じがしていたが、やはり自殺の背景にはうつがあり、そこにきちんと教育現場で向かい合わなければ子どもの自殺は予防できないという本筋に戻った教育実践が行われ始めていると感じた。だからこそ、教員が危険と隣り合わせなことをせざるを得なくなっていると感じた。この協力者会議でも、自殺予防教育のために10時間とか時間をかけて取り組まなければいけないと言ってきたが、まさにそのことが重要になってきていると思った。
他方で、教員の研修や保護者との意識共有など、ベースがないまま進んでいくと、様々な形で危険が生じると感じていたところ。教育現場がうつや不安に関心を持ち、そこから予防しようという発想はとても大事なことだと思うが、そのためのベースとして、教員の研修と、保護者や地域の医療機関等との連携を行っていく必要があると思う。
【委員】 自殺予防教育は、学校教育の中で展開していくことに大きな意味があるし、限界もある。数は少ないが、特に小学生の自殺の原因は、家庭の要因が非常に大きい。そして、中学生も家庭の要因が背景に色濃くある。学校がどのように子どもたちに関わっていくのかという取組を進めるのと同時に、どのように家庭、親子関係の問題を自殺予防の文脈に組み入れていけばよいか。
弘前大学の取組では、保護者に了解を取っているとのことだったが、了解を取るだけでなく、保護者に対して、学校を1つの発信基地にしながら働きかけをしていかないと、子どもの自殺が減らないのではないか。コロナ禍で子どもの自殺が増えた背景には、もちろん社会不安もあるし、あるいは夏休みが短くなって、9月1日という特異な自殺者数が表れる日が前倒しになったとか、あるいは著名人の自殺の影響があったとか、様々なことが背景にあると思うが、家庭の中に子どもも大人もとどまっていく中で、今まで見えなかった問題が子どもたちにのしかかってきたのかもしれない。
そう考えていくと、保護者に対してどのようにアプローチすればよいのか。自殺が起きてしまったときに、ともすれば、学校に全て責任があるという雰囲気になってしまっている。ある程度学校がデータを持っており、子どもに関わっていく必要があるとしても、子どもの自殺予防全体を考えたときに、不安定さを生み出す家庭にどのように働きかけていくのかということを考えなければならないと思う。ある取組を行うときに、家庭への取組も不可欠だと。そこを発信していかないと子どもの自殺は減らないだろうし、学校の負うべき責任が肥大化していく恐れがあると思う。
【主査】 これまでも、家庭に対する発信も含め、学校がプラットフォームのようにいろいろな機能を背負わざるを得ない現実があったとは思うが、そもそも自殺対策というのは、ほかの機関との連携なしには成り立たないというか、学校が家庭に対する働きかけまで背負うにはやはり限界がある。虐待の問題も同様だが、本当の意味での連携が成り立つかどうかという点は、重要なポイントだと思った。
例えば、足立区のSOSの出し方に関する教育では、保健師を講師にしており、その意味では、子どもの自殺予防に関する保健所との連携の一例とも言える。子どもの自殺予防は教育委員会、学校だけの問題ではないという認識をどれぐらい共有できていて、現実的に絡んでいくことができているのかという点は気になるところだと思った。
【委員】 十分にはやれていないが、自殺予防教育を実施するときには、学校と相談しながら、保護者にも公開している場合もある。事前の教員研修とともに、すべてとはいかないが、保護者の研修もできるだけ実施するように努めてきた。少なくとも教員研修は必ず行うようにしている。学校も時間を生み出す大変さはあるが、子どもの命の危機を考えるのであれば、教員研修と保護者研修を行うための工夫が必要だと考えている。
自殺予防教育を実施した後に、ハイリスクな子が浮かび上がってくる場合も想定される。そのことで、学校が責任を問われることも考えられなくはない。だからという訳ではないが、自殺予防教育を実施する際に、先生方と保護者とで一緒に考える機会を持つことは、とても大事だと思う。自殺予防教育で、何を子どもたちに学ばせたいのか、教員と保護者がお互いに理解し合い、子どもたちの生きる力を培うために協力し合えることが望ましいと思う。
【委員】 これは文部科学省に聞いて分かることではないのかもしれないが、厚生労働省などで、子どもの自殺予防という観点から虐待問題を考えるという視点に基づく取組やデータなどはあるのか。
【事務局】 自殺対策という観点で、文部科学省と厚生労働省とは、いろいろな場面で連携している。厚生労働省では、自殺対策全体を束ねる、あるいは各都道府県に自殺対策の拠点をつくり、関係機関との連携を広げるといった取組が行われている。委員の御了解が得られれば、この協力者会議において、厚生労働省からその辺りの説明を行っていただくということもあり得ると考えている。
【委員】 子どもの自殺予防の背景に、家庭内問題、親子、虐待の問題が非常に大きいという認識の下に取り組まれているかどうか、という視点からの情報はないのか。
【事務局】 厚生労働省では、自殺対策を所管する部署と、虐待を所管する部署が異なっているため、虐待を所管する部署が自殺との関係をどのように見ているかという問題もあり、そういう視点があるかといえば詳しくは分からないが、その辺りも含めてどのように考え、対応しているのかという点について、説明いただくということは可能かと思っている。
【委員】 子どもの自殺を予防するには、まず原因からして、家庭内の問題も非常に大きいということが共有されなければならないと思う。この点についての情報提供を、国、学校から行うなど、いろいろ方法はあると思うが、いずれにせよ、家庭に非常に大きな原因があるということについて、あまり認識されていないことに問題がある。子どもの自殺=いじめというようにすぐ直結し、いじめ自殺ばかりがクローズアップされるが、実際、自殺の背景には家庭の問題、そして、うつ・不安という精神疾患の問題があるということの認識があまりにも低いと思う。
そこの共有がまずなされて、その上に立った対策を考えていかなければならないとすれば、原因の除去も、ハイリスクの子どもが見つかったときの支援も家庭抜きには考えられないので、学校だけでその子を支援していくなんてことはあり得ないと思っている。発見の窓口がどこかは別としても、ハイリスクの子どもを支えていくのは、やはり地域と家庭と医療とがなければ無理。このため、文部科学省、学校だけで考えられるのはとても少ない分野になってしまいそうな気がしており、もう少し横断的にこの問題を把握していかないと対策も立てられないと思う。
【主査】 文部科学省、学校としてできることがまだ十分なされていないところはあるけれども、その上で真に実効性の高い施策を考える上では、そのとおりだと思う。
【事務局】 家庭に対する支援を行うことや、学校が関係機関に児童生徒をつなぐということに関連して、例えば教育相談コーディネーター等の活用なども考えられる。このため、事務局からの提案として、これまでの委員からの指摘も踏まえ、学校と関係機関との連携、家庭問題へのアプローチに関して、厚生労働省から行政の観点で、教育相談コーディネーターから現場の観点で、この協力者会議でのヒアリングを行うことは考えられる。
【主査】 リスクのある子どもが見つかったときにどうするかというのはずっと繰り返し議論されてきたことでもあり、そういう意味では、今の議論も重要なところになるかと思う。
また、今日のヒアリングの話に少し戻ると、ICTを活用した自殺対策については、効果的であると同時に、こういうことに留意しないと危険だという意見も幾つかいただいたところ。GIGAスクール構想によるタブレットが学校に整備されていく中で、例えば今回のヒアリングにもあったように、子どもの心の健康、心の天気を測る方法もあれば、ストレスチェックのような測り方もあるだろうし、こうした工夫は行われていってもよいと感じる一方で、やはり利活用にあたっての十分な議論は必要かと思う。
【委員】 データが蓄積されるというのはとても有効だと思う半面、心配にもなった。データから見取ったことと子どもの実際の様子を見たときに、それに対してどのようにアプローチをしていくのかというのは、やはり教員、カウンセラーなど、現場にいる人間次第なので、ICTは早期発見のきっかけとしては重要なツールである一方で、同時に教員等の気づきや対応の能力を高めていかないと、子どもの危機は救うことができないのではないかというのが率直な感想です。
【主査】 これまでも生活ノートにいろいろなことを書いてきた子どもはいるが、それが生かせないような悲劇もあり、ツールが整えば問題は解決するというような短絡的な発想に至らずに、いかに活用するかという点では本当に様々な取組が必要だと思う。
【委員】 大阪市の事例を見ていると、学校でここまでデータが集積できることには驚いた。他方で、活用のメリット、デメリットがあるということは、今までの世の中のICT化の教訓としてあることなので、ここは大きく俯瞰しつつ、メリット・デメリットをよく見る必要はあると感じる。
そして、千葉大学から報告があった弘前大学のストレスチェックの話では、大人のストレスチェックがどれだけ自殺対策に効果があるのか、それから、職場でのメンタル不調者のあぶり出しになるのではないかといった、様々な議論があったことを思い出した。このストレスチェックが有効なのか、そして、それを普及させるべきなのかというところは、やはり丁寧な議論が必要かと思う。
ICTの活用は、データの集積・蓄積という点ではすごくメリットがあるし、これからの時代になると、自殺予防とか、それから、人の心の変化を把握するときに有用なツールになるのかもしれないので、その特性をうまく利用していくことは必要と感じた。
【主査】 事務局に聞くが、今議論が出ているようなICTの活用について、メリット、デメリットというか、留意点のようなものを明確にして、今後、文部科学省として発信するという考えでよろしいか。
【事務局】 ICTの活用に関しては、今回のヒアリング等を受けて、委員にいろいろな評価をいただいたところを審議のまとめに盛り込んでいくというところだと思う。ただ、単に評価するだけではなく、メリット・デメリットを提示できればと思っている。要は、学校現場が使うときの留意点ということになろうかと思う。
その上で、協力者会議での議論において、ICTの活用は有効だというところになれば、文部科学省として、例えば調査研究を行うなどの対応もあり得ると思う。
【委員】 今日の説明を伺って、あるいはコロナの中で実際に大学の授業等がオンラインになっていく中で、私はもうICTを自殺予防と生徒指導上の問題に活用しない手はないだろうと思う。自殺予防に関していうと、例えばストレスチェックをやることによって、課題を抱えている子を見つけ出すことはこれまで以上に可能になると思う。場合によると、これまで気づいていなかった子どもの心身の状態に気づける可能性がある。そういう意味では、課題を抱えた子どもを見つけ出して関わるためのきっかけをつくるツールとして、私は生かさない手はないだろうなというのがまず基本的な考え方。
その上で、危険のある子を見つけたときにどう関わるのか、危険の高い子をどう支えるのかとか、あるいはほかの子とは外れ値みたいなものが出てきたときに、それをその子の持っている個性と捉えながら成長を促していくというような、教育哲学みたいなものを持っていないと危ないと思った。
今までの自殺事案を見ると、担任の先生が抱え込んでしまって、ノートに書いてあるものを見落としたり、あるいはうまく対応できなかったりしている。そうした情報を今日の大阪市の取組でいえば、全校で共有していく。そこで生身の教員同士が議論して、この子にはこういう関わり方が有効ではないかという対応方針を決めていく上では、非常に有効なツールになるのではないかと思う。その際には、子どもをどう育てていくのかというような哲学とか、あるいはデータを共有、分析し、プランニングして対処につなげていくときに、ちゃんと意見が言い合えて、若い人も意見が出せるようなことが保障されていないと、ツールも生きてこないのではないかということを強く感じた。
遡って考えてみると、我々がずっと言ってきた、関係者の合意形成ということが重要になってくる。学校の教員、保護者、そして、心理や医療、福祉の関係機関による合意形成のネットワークをまずつくるということ。それから、教員研修を必ず行うこと。また、保護者に対しの研修や啓発も必要。
学校、保護者、関係機関、地域の合意形成を図るという、非常に大変な営みをやっていくことが子どもを支えて、自殺予防の取組が進んでいくことになるということを改めて感じた。その原点に戻っていく必要があるのかなと。
また、今日の発表でも、うつだとか不安についての話も出てきたと思うので、危機理解と援助希求という二本柱も大事だということは、改めて感じたところ。
【主査】 ストレスチェックも、まさに自殺予防教育の中で自分の心の状態に目を向けて、自分が今こんな状態ということを子どもたちがまず理解して、それにどう対処しようかということを考える力をつけるという流れの中で行われれば、非常に効果が出てくると思う。それとは別に、スクリーニングの結果、ちょっと心配な子というレッテル貼りにつながる危険もある。
あくまでやっぱり子どもたちが自己理解を深めて、自分でストレスに対処する力、援助希求をするとか、物の見方を考える力を身につけることが重要。このため、今まで言ってきた合意形成もそうだし、それから、自殺予防教育で肝心な危機の理解と援助希求について、よりうまく教えるためのツールとして位置づけるというのが適切。前から言っているが、私はスクリーニングモデルは危険だと思っているので、その辺りの位置づけを明確に示さないといけないと思った。
【委員】 こういうデータを作っていくときに、もちろん指導要録などもそうだが、子ども自身が自分のデータがどのように使われるのかを知らないというのは、どうなのかと思っている。全部を伝えるべきというわけではないが、何も知らせずにデータを利用していいのかという議論があり、子どもの知る権利との兼ね合いでどうなのかなと。その意味で、合意形成といったときに、教員と保護者、関係機関、地域だけではなく、子どもとの合意形成も必要なのではないかと改めて思った。
【主査】 子ども自身の主体性を大事に考えると、確かに周りがあらゆる情報を共有して、寄ってたかって関わってくると、極端に言うと、むしろ子どもの力を弱めることになってしまわないかと思った。
【委員】 子どもが自分の情報を集約されて、ほかの人たちがこれだけ見て、教員が全部知っているということが、保護者はもちろん、子ども自身にとって、自分の情報として管理していることになるのだろうかと思った。私がもし子どもだったら、すごく嫌だろうなと思ってしまったので。
一体、個人情報としてそのことがどう管理されるのか、開示されるのか、それから、修正要求ができるのかとか。主観的な意見は書かないとはいえ、事実としたって、子ども本人からすれば、これは事実ではないというような部分も出てくるのではないかと思う。指導要録なども、全て開示請求はできるようにしなければいけないということがあるので、そういう意味では、そういうものに耐えるだけのデータにしなければいけないし、訂正要求にも応じるという体制は必要だろうし、こういうものを作っているということを子どもや保護者にも伝えておかなければいけない。
そして、往々にしてありえるのが、虐待、非行といったときに、警察や児童相談所から情報開示が求められることもあると思う。特に虐待対応の観点から言えば、そういった情報を学校が持っているのであれば、開示してほしい。だけど、それを虐待対策のためだからといって学校が開示していいのかという議論が起こる。こうしたことを考えると、個人情報を集積しているということが何のためなのかを明確にしておかなければならない。子どもの最善の利益の保障のため、子どもも納得の上でなされているのであれば、各機関へ情報共有することも問題ないと思う。だからこそ、何のためにという辺りからきちんと考えておかないと、今のような問題が起きるなと思った。
また、別の話になるが、ICTがこれだけ普及している中での自殺予防教育という視点から考えた場合、これまで行ってきたような自殺予防教育を、GIGAスクール構想を活用した形で行うと、例えばこういう形でもっと時間節約ができるとか、教員がもっと簡単にできるようになるとか、そういう視点からのICTの活用はあり得るのだろうか。
【委員】 ICTも大事だと思うし、メリットはたくさんあると思うが、その開発とともに、それをどう使うかがとても難しい。他方で、教員が自分の体験などから授業を作り上げていったら、子どもたちもそういうものを肌で感じると思う。どちらにもプラスマイナスがあるので、一概にどちらがよいかは言えないが。
【委員】 例えばいろいろな自殺予防教育のプログラムを文部科学省が提示したとする。それを踏まえて、各学年2コマずつとか、さいたま市は1学年1コマでやっていたと思うが、その1コマでもいいから、自殺予防という大きな目的のために、学年の先生とか、あるいは学年・教科を超えて、先生が総合的な時間をどうつくるのか工夫することが大事だと思う。
その中で、ICTといったときに、オンデマンドで配信するとか、研修に使うとかという場面があってもいいと思う。特に若い先生は、ICTを使った授業をやることがある。友人が死にたいと訴えたときのロールプレイを行う際、私の頭の中ではもうまるで対面のことしか考えつかなかったが、ある中学校では、2人の若い先生が大きな画面にLINEのやり取りを映し出し、子どもたちに実践させるというような、ICTを使ったロールプレイを考えてくれたことがある。
本当に工夫しながら、子どもたちに即してやっていこうという思いや、その1時間をつくるのに相当の時間をかけたことが伝わるし、全てをICT化していくということではなく、使えるところは使っていいと思うが、教員同士、あるいは教員とカウンセラーとか、教員と養護教諭、ソーシャルワーカーとかが一緒に授業をつくって子どもに提供していく、あるいは子どもと一緒に授業をつくっていくという場面を残しておくという必要はあると思う。
【主査】 例えば北九州のプログラムでは、心のもやもやのフローチャートというものを最初にやる場合があるが、例えばその部分に、子どもたちがタブレットでストレスチェックをやるような場面があってもいいかもしれない。その際には、これはこういうことだよという先生の語りがあるというハイブリッド形式で行うと、可能性は広がるし、やりやすくなる面も出てくるのではないかと思う。
やっぱりストレスチェックと教育とが別途なものにならないようにというか、子どもたちに意味を伝えながらやるという形で、うまく組み込めるといいのではないかと思っている。
【委員】 例えば、授業中にタブレットで一斉にアンケートを行って、その結果が即時に確認できるようにした場合は、子どもたちにアンケート結果をみんなで見るというのも知らせた上で行う必要があると思う。子どもたちが自分の心の状態を自分で入力して、他人に見られるということも分かっているようにするというやり方もあると思った。
自殺予防の授業の場面で使うICTと、日頃の子どもの心の状態やストレスの状態を把握するためのICTの活用の2つがあるということを実感した。
【事務局】 次回の会議の進め方については、本日委員から御意見いただいたことを踏まえ、開催日時等を含めて後日連絡したい。
【主査】 それでは、閉会させていただく。
―― 了 ――
初等中等教育局児童生徒課
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