【特集】「コツコツと誠実」な取り組みで新時代の力を培う…東京女学館 – 読売新聞

基本問題

 東京女学館中学校・高等学校(東京都渋谷区)で今年度、同校で美術教員を25年間務めた渡部さなえ氏が新校長に就任した。渡部校長は、同校が進めてきた「インクルーシブ・リーダーシップ」の養成を、同校の強みである「コツコツと誠実」な取り組みによって着実に実現していきたい考えだという。「インクルーシブ・リーダーシップ」の意義やそれを養う教育の仕組みについて渡部校長に聞いた。

インクルーシブ・リーダーシップを育てる6年間

「インクルーシブ・リーダーシップをさらに推進したい」と話す渡部校長

 「インクルーシブ・リーダーシップをさらに推進したいと思います」。新校長としての抱負を渡部校長はこう語った。

 同校は「高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成」を教育目標に掲げ、21世紀のグローバル時代に対応する力として「インクルーシブ・リーダーシップ」の養成に力を入れてきた。渡部校長はこの言葉を「1人のリーダーが牽引(けんいん)するのではなく、おのおのが得意分野を生かして課題を共有し、時にリーダー、時にサポートする側となって、協働しながら一つのことを成し遂げる力」と説明する。

 渡部校長は女子美術大学を卒業後、一般企業に7年間勤務し、千葉県の公立中学校の非常勤講師を経て1996年に東京女学館に赴任した。以後25年間、美術教員として教鞭(きょうべん)を執ってきた。多年の教員経験から渡部校長が感じる同校の強みは、「誠実な学校であること」だという。「コツコツと、一つ一つのことに取り組む姿勢が教員の根本にあり、生徒にもそう指導しています。その積み重ねが想像以上の成長につながる様子を見てきました」

 時代に対応した新しい力である「インクルーシブ・リーダーシップ」もまた、中高の6年間をかけて「コツコツと誠実」な取り組みによってこそ、育成できるのだという。同校は6年間を2年ごとの3ブロックに分け、成長段階に応じた目標を設定した上で、行事や特別授業などを一つ一つ積み重ねていくキャリア教育のプログラムを用意している。

 中1、中2の2年間は「自己理解:自分を磨く」の時期だ。課題の提出などを「先生との約束」として実践することから学生の生活習慣を少しずつ身に付け、学期ごとのワークショップを通して自己理解や他者理解について学ぶ。

「軽井沢学習寮」での研修で料理をする生徒たち

 中1の夏休みに3泊4日で行う「軽井沢学習寮」の研修では、一人一人の違いを認識することを出発点に、友達作りの方法を学ぶ。中2では「自分史作り」で幼少期を振り返り、将来を考えるきっかけとする。こうして自己認識を深め、他者への関わり方を知ることで、インクルーシブ・リーダーシップを発揮するベースを作る。

 中3、高1は「個性の伸長:価値観を広げる」の段階であり、生徒は将来を意識して自分の可能性を探る。中3では保護者の協力を得てさまざまな職業の特色ややりがいをまとめる「職業アンケート」、さまざまなジャンルの職業人を招いて話を聞く「15歳のハローワーク」など、仕事の世界を知るプログラムを実施する。

 高1の5月に行う2泊3日の「箱根研修旅行」では、30~40代の卒業生による講演会や、クラスメートの前で自分のことや将来の夢を語る「3分間スピーチ」プログラムがあり、改めて自分自身や友人との関係性を省みて進路を意識し、将来について深く考える機会としている。

 高2、高3は「自己実現:未来へつなげる」の時期だ。それまでに培った自己認識力や個性、価値観に基づいて進路を見定める。高2は特に、体育祭、文化祭など学校行事の主力となって、下の学年をまとめながらそれぞれの活動に取り組むことで、インクルーシブ・リーダーシップに磨きをかけることが期待されている。

「スタディ・アジェンダ」が自律性と協働性を高める

 インクルーシブ・リーダーシップは、中高一貫のステップを踏んだキャリア教育の中で養われるだけでなく、同校のユニークな仕組みによって強化される。学校行事やクラブ活動を生徒が自主的に運営する「スタディ・アジェンダ」(実行委員会方式)がそれだ。各教科担当の係や美化委員、図書委員、生活委員といった学校生活に関わる委員、学校行事に関わる専門委員などを各クラスから選出し、活動や行事の運営の主体とする。

 渡部校長は「中学ではクラスのほぼ全員、高校でも半数以上の生徒が何らかの委員を受け持ちます」という。

11月の「記念祭」で演技を披露するダンス部

 例えば、9月の「体育大会」では保健体育委員会が運営を担当するが、各クラスから選ばれた委員たちは記録・用具・審判・放送などの役割を分担し、滞りない進行と生徒全員が楽しめる企画のために、持ち場で力を尽くしながら協働体制で会を進める。

 11月に行われる「記念祭」も、インクルーシブ・リーダーシップ実践の貴重な機会だ。記念祭実行委員は企画やプログラムの運営、校内の装飾を行う。受付、場内案内、美化、放送などの係を分担する委員会もあり、自律的に活動を行う。「お客様の案内や警備補助など、目立たない立場の委員もいますが、皆自分の役割に熱意を持ち、とても一生懸命に取り組みます。無事終了した時の達成感はひとしおです」と渡部校長は話す。

 生徒が自発的な活動のために委員会を設置することもある。「模擬国連委員会」や、学校敷地内に作ったビオトープを運営する「ビオトープ委員会」、ナチスの犠牲になったユダヤ人少女アンネ・フランクにちなんだバラを世話する「アンネのバラ委員会」などがそうだ。

 平和教育や環境教育、ボランティア学習などを教育の重点課題に位置付ける同校は、現在「ユネスコスクール」の認定を目指すチャレンジ校となっている。「アンネのバラ」やビオトープの委員会活動も、チャレンジ校としての活動報告に盛り込まれる。「ユネスコスクールの活動には、学校の枠を超えた地域や社会のさまざまな分野との連携と、地道で誠実な継続が必要です。まさに『一つ一つ、コツコツ』の積み重ねです」

活動に参加して自分の殻を破り、新しい可能性に出会う

 多様な委員会活動の中でも、リーダーシップが重要となるのが「進路学習委員」と「修学旅行委員」だという。

 キャリア教育関連の行事に携わる進路学習委員は、高1の箱根研修旅行で大きな役割を担う。クラスごとに行う「3分間スピーチ」の順番を教員と相談しながら検討し、本番では司会を務める。休憩時間には各クラスの委員が集まってミーティングを行い、円滑な進行や盛り上げのためのアイデア交換などを行う。

 「生徒にとってスピーチは真剣勝負なので、誰かのスピーチを聞いて『原稿を考え直したい』と言い出すこともあります。委員はそうした相談にも乗り、順番を調整したりします」

 高1の夏休みに行う大学のオープンキャンパスへの参加も、進路学習委員が主体となって運営される。

 「各生徒は興味のある大学、学部を自由に回りますが、進路学習委員は各大学・各学部を回って情報を集め、冊子にまとめて後日ホームルームの時間に行われる報告会で配布します。この報告会の運営も委員が担当します」

 高2の学年末に行われる京都・奈良への4泊5日の修学旅行は、多彩な学校行事のフィナーレであり、委員会活動の集大成でもある。行事の指揮を執る修学旅行委員の、正副委員長と各クラス2人の委員は4月に選出され、1年間かけて旅行の企画や準備を進め、現地の宿泊や食事の手配、部屋割りなども手がける。

 こうした多岐にわたる業務や責任を担った委員の成長は著しいという。「非常に意識が高まり、教員のやるべきことのカバーやフォローをしてくれたり、生徒に呼びかけて引き締めてくれたり、頼もしい限りです」と渡部校長は感慨深げに語る。

 「教員になって間もない頃は、前の仕事と異なる環境で、気付かなかった自分の違った側面に気付き、それが意欲につながってきました。本校も、さまざまな活動に参加して自分の殻を破り、想像もしなかった自分の可能性に出会える場所です。成長を積み重ね、大きなことをやり遂げた生徒のキラキラした姿を見るのは、教師冥利(みょうり)に尽きます。そんな生徒を一人でも多く生み出す学校にしていきたい」

 (文・写真:上田大朗 一部写真提供:東京女学館中学校・高等学校)

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