変わるか 日本の“性教育” – NHK NEWS WEB

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変わるか 日本の“性教育”

皆さんは学校で「性教育」を受けた記憶がありますか?何を「性教育」というかは議論があるのですが、日本の小中学校の授業では性行為や避妊はほとんど取り扱われていません。しかし、性被害や性暴力が相次ぐ中、国は来年4月から新たな教育を始めようとしています。なぜ今必要なのか、その課題や、海外での性教育がどうなっているのかを考えてみます。

望まぬ妊娠 身にしみる性の知識不足

この春、中絶を経験したという1人の女性と出会いました。関西に住む20代の会社員、アヤさん(仮名)です。体調の変化を感じて受診した産婦人科で、妊娠を告げられました。

全く心の準備がないまま突然告げられた「妊娠」。動揺で身体は震え、医師から渡されたエコー写真を思わずくしゃくしゃにしてしまったといいます。アヤさんは心の整理がつかず、親にも交際相手にも相談できないまま、1人で中絶手術に臨みました。

交際相手の男性とはお互いに避妊をしていたと思ってきましたが、結果的にその方法は、正しく避妊したことにはなっていなかったことが分かったといいます。アヤさんは学校で性についての正しい知識を教えてほしかったと話していました。

アヤさん

「自分の身を守るって言う概念をまず知らなかったし、教えられていなかった。命に関わることなのにと、知らなかった自分を責めました」

こんなことも知らない?

アプリのチャットで助産師などの専門家が性に関する相談を無料で受け付けるアプリ「スマルナ」。

アプリのダウンロード数は新型コロナウイルスの感染が拡大したことし3月以降急増し、今もコロナ前のおよそ4倍の月4万件にのぼっています。

ところが若い世代は性についての知識がかなり不足していると担当者は驚いています。例えばこんな質問が寄せられているといいます。

「外だし(ちつ外射精)したので妊娠してませんよね?」

「避妊に失敗したのでちつを洗えば大丈夫ですか?」

性教育の遅れ なぜ?

あまり知られていないことですが、日本の中学校の保健体育の授業では、避妊の具体的な方法はほとんど教えていません。

中学1年生では、成長に伴い男女の体がどのように成熟していくか。ヒトの受精卵がどう胎内で成長するかを学びます。

しかし教科書は、その前提となる性行為には触れていません。ましてや避妊方法などほとんど教えないのが実態なのです。

根拠となっているのが国が定める学習指導要領に1998年から記載されている「妊娠の経過は取り扱わないこととする」という文言です。

通称、「歯止め規定」と呼ばれています。

重い腰をあげる国

しかし、SNSなどをきっかけとする性被害が後を絶たず、性暴力の被害に抗議するフラワーデモの広がりなどもあって、国はようやく重い腰をあげようとしています。

来年4月から、幼稚園から小中高校、大学まで、「生命(いのち)の安全教育」という新しい教育を始める方針です。

具体的にどのような伝え方がいいのかを今、国の有識者会議で審議していますが、水着で隠れる、いわゆるプライベートゾーンを人に見せないことやデートDVといった、性にまつわる具体的なリスクを教えていく方針です。

ただ、子どもたちにあまり踏み込んで性的な知識を教えるのは好ましくないと考える人もいることから、引き続き性行為や避妊は取り扱わないというこれまでの方針は変わりません。

模索が続く教育現場

こうした中、国に先駆けて子どもたちに性に関するリスクを教えようと模索を始めた学校も現れています。大阪市立田島中学校です。

今年4月から性の被害者と加害者を生まないための教育を新たに導入しました。中学1年生では、思春期の体や脳の変化、心の傷の対処のしかた、中学2年生では恋愛関係から性暴力につながりかねない「デートDV」への対処法などを学ぶといいます。

ただ、一歩進んだこの授業でも性行為や避妊は教えません。教師たちは子どもたちに身を守る知識をどこまで伝えきれているのか、ジレンマも感じているといいます。

教師たち

「伝えられるものは伝えたいが、性交渉とか性的接触とかは授業では言いません。そこだけはあいまいですね」

「学校できちんと教えるべきだが、それに対応する方法が指導要領にはのっていない」

包み隠さず伝える ドイツ

海外では性教育はどのように行っているのでしょうか。ドイツの例をみてみます。

9月、東部の公立学校を取材しました。

日本の中学1年生にあたる生徒たちが生物の授業で学んでいたテーマは「避妊」。その学習は実践的です。

机の上には、さまざまな避妊具や避妊薬が置かれ、生徒たちは直接手にとって観察。

コンドームを木製のペニスの模型に装着する練習も行われ、裏表を間違えないように、コンドームの先端に空気を入れないように、注意しながら行っていました。

生徒の反応は?

印象的だったのは、生徒たちからクスクス笑いやてれるようなしぐさがほとんど見られず、男子も女子もお互いに真剣な表情で意見や質問を交わしていたことです。

教師と生徒との信頼関係はもちろん、生物学として客観的に扱うことで、性のテーマに付随しがちなエロチックな側面がそぎ落とされていると感じました。

12歳の女子生徒

「家では話さないことで、避妊など初めて知ることばかりだった。

自分にもいずれ関わることなので、知っておく必要がある」

12歳の男子生徒

「コンドームを使う練習はよい経験だった。女子の避妊方法についても、知ることができてよかった」

正確な知識を

ドイツでは州ごとに教育のカリキュラムが異なりますが、生物学的な内容や避妊の方法、それに性暴力など包括的な性教育を行おうということで各州が一致しています。

生徒たちが使っている教科書では、コンドームやピルはもちろん、子宮やちつの中にいれて使う避妊具なども写真付きで詳しく紹介されていました。

授業を担当した生物の教師は正しい知識を包み隠さず伝えることが重要だと言います。

生物教師 フェアステラさん

「生徒たちの体で今、起きている変化について、じっくり説明する必要があります。自慰行為や性行為、異性への関心の高まり、意図しない勃起、どれも普通のことなのだと伝えたいのです。はっきりしないまま、間違った情報を得るようになっては残念です」

ギュンツェルさん

「突然のことに慌てないよう、子どもたちが適切な心構えをもち、詳しく知ることに賛成です。センシティブなテーマなだけに、自分で調べると、間違った方向に行ってしまいがちです。だからこそ、学校で、信頼できる情報源から学ぶべきです」

台湾でも踏み込んだ性教育

台湾でも踏み込んだ性教育が行われています。きっかけになったのは、2004年に成立した「ジェンダー平等教育法」です。

台湾では性教育は「ジェンダー平等教育」の名目で行われ、男女平等の重要性、「男らしさ」「女らしさ」といったステレオタイプの解消など幅広く扱います。

中学生の性行為が適切か適切でないかではなく、中学生でも性行為をする生徒がいるという現実を踏まえ、中学2年から「避妊の方法」について学びます。自分の身を予期せぬ妊娠や、性感染症などから守るためです。

また、性行為の時に気が進まなければNOと言っていい、といった同意の重要性なども学びます。

性教育は「基本的人権」

海外では、性教育を保障することは「性の権利」の重要な一部であるため、基本的な人権の重要な部分を担うものとして広く認知されています。

2009年には、ユネスコ=国連教育科学文化機関が中心となって、包括的性教育の枠組みを示す「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を公開し、ヨーロッパの各国やアジアでも台湾などがこのガイダンスを踏まえて性教育の方針を出しています。

それらと比べると日本の教育はまだ遅れているといわざるをえませんが日本も「自分の身を守る」、「相手を大切にする」ために小さいながら大事な一歩を踏み出すことになります。

今回の取材を通して、私たち一人一人が、これまで「見ないようにしてきたこと」に目を向けてみることがまず必要なことなのではないかと感じました。

大阪放送局記者

泉谷圭保

2000年入局

山口局、国際部、ワシントン支局などを経て2017年から現所属

子育てや教育などを中心に取材

ベルリン支局長

山口芳

2008年入局

函館局、札幌局、国際部を経て現所属

国際部記者

松崎浩子

2012年入局

名古屋局を経て現所属

ジェンダーをめぐる世界の現状などを中心に取材

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